みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

Eternights(PS4)

Eternights
Studio Sai
2023年9月12日
PlayStation 5、PlayStation 4Microsoft Windows


本作『Eternights』はシアトルを拠点とするStudio Saiによるインディゲーム。プロデューサーのJae Hyun Yoo氏は元Apple社員で、ディズニーの映画『アナと雪の女王』や数々のゲーム制作にアニメーターとして携わっている。

以下、ユナルートクリア後の感想。
※ネタバレなし

 

本作は恋愛シミュレーションRPGを掛け合わせた異色作。一見すると日本のゲームのように思えるのはJae Hyun Yoo氏が本作を制作するにあたって強い影響を受けたのがペルソナシリーズやDevil May Cry新海誠作品であることを踏まえると納得できるだろう。


実際にプレイしてみると、"まんまペルソナ"といった印象を受ける。なので、本作を説明するにはペルソナとの相違点を挙げるのが手っ取り早い。

 

本作は日本語吹き替えに有名声優を多く起用している。主人公の高校生男子が友人のススメで出会い系サイトに登録するところから物語が始まるのだが、そこで繋がった女性とのSNSでのやり取りもフルボイス。その他にも、3Dマップの移動やアニメーションなど、メジャー作品に引けを取らない演出が続くが、キャラクター造形のチープさや頻繁なロードが挟まれることでぶつ切りな印象を受ける。ちなみにボイスは中盤から省かれることが増えていくので息切れ感は否めない。

 

カレンダーによる時間経過表現もペルソナそのままだが、ペルソナが1年間のスケジュールであるのに対して、本作は2ヵ月間しかないので物足りなさを感じてしまった。
とはいえ、インディゲームならではのアイデアで、作品をコンパクトでわかりやすくまとめることには成功している。ペルソナシリーズでは仲間の他にも多くの人とコミュニケーションを取ることで各能力を上げられるシステムを採用しているが、本作では無人の街を列車で移動しながら仲間を増やし、限られたキャラクターとの関係を恋愛シミュレーション的な演出に凝縮することでオリジナリティを生み出している。
…と言いたいところだが、2か月という短い期間ではイベントの数が限られてしまい、恋愛要素だけ取ってもペルソナの方が充実していると言わざるを得ないのが残念。

 

本作のストーリーは突如現れた巨大な壁によって荒廃してしまった都市を舞台に、ゾンビ化した人々と戦いながら列車に乗って壁の破壊を目指すというものになっている。仲間はそれぞれ特殊な能力を持っており、彼らとの絆を深めることでバトル時における様々な恩恵を受けられる。

 

5人の仲間のうち3人が女性キャラクターで、彼女たちの好感度を上げることで恋愛関係に発展し、最終的に誰と付き合うかでエンディングが分岐する。

 

タイトルの「Eternights」とは各国で研究されている不老不死の新薬の名称で、それがこの世界の現状とどのような関わりを持つのかというのがストーリーの肝なのだが、最終的には新海誠作品のような「君と僕の世界」に着地する。ストーリーは主人公とヒロインにとっての「抗うべき運命」としての作用しかないので、そこまで深堀りもされないし、実際にプレイしていても大して気にならない。
会話の内容はギャルゲーっぽい砕けたものが多く、選択肢も明らかにふざけているとしか思えないものが散見される。
では本作がネタとして作られたバカゲーなのかといえば、要所要所でシリアスかつ詩的な演出が光り、捉えようのない独自性を生んでいるのも確かだ。


科学に強い「シア」という女性とのイベントで、ネコ語の翻訳機を作るというものがあるのだが、いくら探しても「ネコが見つからなかったので機械が正常に機能しているのかわからなかった」という結論で終わる。このイベントは本作の持つ例えようのない「素敵な脱力感」を端的に表しているように思う。

 

ゲームの雰囲気は暗く、街の様子はペルソナよりも真女神転生の方に近い。BGMがほとんど環境音的なものしかないのが寂しい。アイドルとして活動していたヒロイン「ユナ」が自分の歌を歌えるようにギターを調達するイベントがあり、その後皆で焚火を囲んでユナの歌を聴く場面があるのだが、なぜかほぼ無音。にもかかわらず、道中の何でもないバトルの途中で誰が歌っているかわからない歌がフル尺で流れるのも謎過ぎる。

 

バトルはそこそこの難易度で、大技を決めるにはQTE的な素早いボタン操作が毎回求められ、シールド付きの敵には属性による特殊攻撃を数回当てる必要がある。単調ではあるが、特殊攻撃は女性ヒロインの唯一の見せ場でもあるので、難易度を落として演出を楽しむ分には問題ない。

 

マップ上の謎解きの一部や、列車内のトレーニングでプレイすることになるミニゲームは説明不足で理不尽に感じた。

 

ストーリーの中盤でバイクを操作して敵を追跡するミニゲームがあるのだが、ほんの少しの出っ張りにタイヤが触れるだけで死ぬスペランカー並みのバイクの脆弱さには頭を抱えた。こういうものが一個あるだけで2周目への意欲がごっそり削られるのでやめてほしい。


総評

本作を海外のアーティストによる日本のコンテンツの換骨奪胎的な作品だと期待してはいけない。しかし、ペルソナと新海誠作品の融合がコンセプトの作品だと言われれば、確かにそうだとしか言いようのないものにはなっている。インディゲームのクオリティを越えているような印象を与えつつも所々に顔を出すチープさが、やはりシリアスなストーリーの所々に顔を出すギャルゲー要素と相まって、かなり奇妙で捉えどころのない不思議な脱力感を醸し出している。この脱力感の要因は製作費に依存したものなので、今後は是非メジャー作品並の予算で作られた続編をプレイしてみたい。
序盤こそ悪い部分が目立ち、不安だらけではあったが、慣れてくるとその奇妙さに惹かれる部分も多く、最終的には十分楽しめるものになっていた。2周目ではほとんどのステータスを引き継げるので、恋愛シミュレーション部分に特化したプレイが出来る。このゲームの真骨頂は2周目以降だろうとは思うが、理不尽なミニゲームが足を引っ張っているのが残念。
変なゲームが好きな人には十分勧められる作品ではあるが、最近のコンシューマでは正統派の恋愛シミュレーションゲームのほうが圧倒的に少ないので、多少食傷気味ではある。

 

 

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