みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

クレヨンしんちゃん『炭の町のシロ』(Switch)

クレヨンしんちゃん『炭の町のシロ』
ネオス
2024年2月22日
Nintendo Switch


本作『クレヨンしんちゃん『炭の町のシロ』』は、2021年に発売された『クレヨンしんちゃん 「オラと博士の夏休み」〜おわらない七日間の旅〜』の続編。開発はネオス、「ぼくなつ」シリーズを手掛けてきた綾部和氏がスーパーバイザーとして参加しています。
以下、クリア後の感想。
※ネタバレなし

 

舞台は秋田県

前作ではしんちゃんの母・みさえの故郷である熊本が舞台でしたが、今作は父・ひろしの故郷の秋田が舞台になっています。とはいっても、祖父祖母の家で暮らすというわけではなく、ひろしが仕事用に借りた古民家に家族で寝泊まりをしているという設定。古民家はひろしの実家からさほど離れていない場所のようで、祖父祖母が毎日遊びに来てくれます。
秋田では前作と同様に、ゆったりとした休日を過ごしながら虫捕りや釣り、家庭菜園を楽しむことができます。これまでの綾部作品と違い、カレンダーによる期限が存在しないので、周回することなく図鑑のコンプリートが可能。

 

「ぼくなつ」シリーズや前作、そして『なつもん! 20世紀の夏休み』(2023年)など、多くの綾部作品に共通するゲーム的特徴として、行動の制限が挙げられます。ご飯は決まった時間に家族で食べるし、遅くまで外で遊んでいると家族が迎えに来るなど。主人公を子供に設定することによるこうした制限は、他のゲームにはない独特のリズムとテンポを生んでおり、慣れると実に心地良い。
いわゆるスローライフ系と呼ばれる作品のほとんどが、実際には自由度が高いがゆえに作業に忙殺され、その任意性ゆえの没入感がゲームの中毒性に直結しているのに対して、綾部作品ではそれらを大胆に分断することで子供目線の日常感覚がリアルに演出されています。朝起きて夜に寝ること、陽が昇って沈み、いつも家族で食事をすることなどを等価に並べることにより表れる特別な日常風景。そうした土台があるからこそ、些細な出来事にも輝きが与えられ、ちょっとした探索が大冒険になる。
こうした綾部作品に共通する特徴は本作の秋田パートでも健在。ただ、家族やその他キャラクターたちのセリフが前作に比べてだいぶ削られていた(特に後半)のは寂しかったです。サブクエストも頼まれた素材を持っていくだけのものが大半。

 

秋田パートでは、キッチンカーでのカレー屋オープンからの流星群観測が印象深く、とても良かったです。他にも地元の子供たちとの交流などもあるのですが、ストーリー的にはあまり生かされず消化不良。他にもいろいろな要素を置き去りにしたままストーリーが進行してしまっているという印象は拭えませんでした。

こうなった理由としては、日数制限の廃止と、もう一つのマップ「炭の町」のストーリーを軸とした作品の方向性があると考えられます。

 

炭の町

しばらく姿を見せなかったペットのシロが黒く汚れた姿で帰って来た。シロに導かれるように不思議な電車に乗ったしんちゃんが辿り着いたのは炭鉱によって発展した炭の町。
そこに住む少女「スミ」は、町で困っている人を助けるため、シロにしんちゃんを連れてきてもらう、という所からストーリーが始まります。

町に着いたしんちゃんは研究所の発明を手伝ったり、経営不振の食堂を繁盛させるお手伝いをしていきます。
町の大人たちが5歳児に大量の金属や宝石、食材などを要求してくる展開はかなり不自然。しんちゃんの見た目が少し変化していたり、炭の町の人たちにだけ別の姿に見えているなどの設定もなし。メインストーリーもサブクエストも全部がおつかいで、がんばって集めてきたのにお礼の一言もない時もあり心がくじけそうになりました。各キャラクター固有のシナリオも秋田パートと同様に薄く、かなり物足りない。

 

前作や秋田パートでは、主人公が子供だという特性がゲームデザインと直結していて、独自のシステムに説得力を与えていたのに対して、炭の町パートはあまりにも一般的なゲームシステムに則しすぎていて秋田パートと断絶しています。とにかく、何故しんちゃんが炭の町で使いっ走りをし続けなければいけないかの背景が語られてなさすぎます。素材によってはお店で買わなければ手に入らないものもあり、のんびりと楽しめていた秋田パートが金策のためだけの作業に感じられてしまうのも残念。

 

ロッコレース

ストーリーを進めて行くとトロッコレースで遊べるようになります。前作「オラ夏」における恐竜バトルのようなミニゲームかと思いきや、なんとメインストーリー絡み。というか、トロッコレースを軸にストーリーが組み立てられていると言っても過言ではありません。なので、トロッコレースで詰むと当然ストーリーも詰みます。しかもこのレース、かなり操作にクセがあり、序盤はなかなかコツをつかみにくい。逆に、お金をガンガン投入して高性能パーツを搭載するとヌルゲーになります。レース自体はコースがたくさん用意されていて面白いのですが、報酬が一回しか貰えないので周回する旨味がありません。

 

ストーリーの目的

炭鉱ではダンシャーリというボスキャラが炭の町を改善するため『無駄ゼロパーフェクトタウン計画』を画策。その過程で「無駄」として切り捨てられそうな食堂や銭湯を守るため、しんちゃんがほぼ一人で奔走することになります。炭鉱には女性労働者がいないので、時代的にはおそらく戦後。一見無駄に見えるものも人間には必要なんだというテーマと昭和ノスタルジーとの相性は良い。ただ、それらは最後まで交わることなく、終盤にかけては「友情」や「犬」などに頼った安易な感動系に収束されていきます。とても大人の鑑賞に堪えるものではないし、ゲーム内に散りばめられた設定すら放棄してしまっているように見えます(設定の土台はおそらく、オスカー・ワイルドの短編『幸福な王子』)。

 

感想

独特な時間の流れの中で過ごす秋田の日常はとても魅力的で楽しい。周回システムを廃したことで、自分のペースで納得するまで遊べるのも良い改変だし、全体的なゲーム部分が前作よりも向上していると感じました。リアルパートとファンタジーパートを分けたのも今後の展開を考えると納得。綾部和氏の作風としては前作の「オラ夏」や『怪獣が出る金曜日』(3DS 2013年)の、現実と夢が混在した子供視点ならではの体験が特徴的でしたが、クレヨンしんちゃんの作風を鑑みると、本作のアニメ劇場版のような構造はわかりやすくて良いと思いました。
本作の欠点は、炭の町パートの作り込みの甘さに限ります。舞台は整っているのに、そこで展開されるドラマが味気なく、それが全体的なストーリーの不満に繋がっている。特に舞台の背景については、言葉でなくとも、もう少し丁寧に描いてほしかった。設定自体は魅力的なので、ディテールの描き込み不足は本当にもったいなく感じました。
「ぼくなつ」的な構造から大きく方向転換した作品だけに今後の課題点も多く、余計に粗が見えてしまったことは否めません。とはいえ、その欠点が致命的とも思えず、良い部分も沢山ある作品なので、このままアニメ劇場版のようにシリーズ化されることを切望します。

 

余談ですが、今回の主題歌は松崎ナオさんが歌っていて、コレクターズエディションにはソノシートがついてきます。こういうアイデアは本当に秀逸!

 

 

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