クレヨンしんちゃん オラと博士の夏休み~おわらない七日間の旅~
ネオス
2021年7月15日
Nintendo Switch
『クレヨンしんちゃん オラと博士の夏休み~おわらない七日間の旅~』はネオスとミレニアムキッチンの共同開発によるゲーム。原作を取り扱う出版社やアニメのスタッフ監修のもと『クレヨンしんちゃん』の世界観が忠実に守られています。
以下、2周クリア後の感想です。
※ネタバレなし
ぼくなつ+クレしん
本作の監督を務めるミレニアムキッチンの綾部和氏は『ぼくのなつやすみ』の開発者であり、本作の発表時には多くのファンから『ぼくなつ』のテイストを期待する声が聞かれました。
実際プレイしてみるとミレニアムキッチンが2013年に発売した『怪獣が出る金曜日』の方により近い内容で、『クレヨンしんちゃん』としてもテレビアニメよりも映画版寄り。これら2つが持つ非日常性と、『ぼくのなつやすみ』の夏休み要素が見事に融合した作品となっていました。
ただし、内容的にはあくまでもテレビアニメの主な視聴者層である子供が楽しめるものになっており、『怪獣が出る金曜日』と比べるとはるかにわかりやすいものになっています。
七日間の田舎暮らし
しんちゃんの母親みさえの故郷である熊本県の架空の町「アッソー」で過ごす七日間。
描き込まれた美しい背景とマップを駆け抜ける3Dキャラクターとが自然に合わさっていて、絵本とアニメの中間のような表現がとても親しみやすい世界を作り上げています。
ゲーム内ではしんちゃんを操作して「釣り」や「虫捕り」「植物採集」が出来、写真に撮ることで図鑑が埋まっていきます。マップによってはSwitchの携帯モードでは見辛いのが難点。
しんちゃんが経験したことはカメラによって日誌に収められ、地元の子供新聞に載せることでおこづかいがもらえます。他にも、サブクエストや町の人の頼みを聞くことでもおこづかいがもらえ、商店でチョコビなどが買えます。
チョコビを一個開封するとカードが一枚貰えます。これは「恐竜バトル」というミニゲームで恐竜を強化する際に使用するもので、勝つためにはとても重要なもの。
この「恐竜バトル」にしても図鑑埋めにしても、コンプリートするには一周のプレイでは中々難しく、ゲーム内での生活に時間的な制約があるため、くまなく遊びつくそうと思うと一周のプレイ時間は最大で約10時間程度。しかし二周目以降も図鑑は引き継がれるので、一週目は自由に過ごすのがお薦めです。
マップを移動することやスタミナ切れによって時間が経過し朝昼夕夜と一日が過ぎていきます。スタミナ切れはお菓子を食べることにより回避可能。図鑑のコンプリートを目指して行動しているとあっという間に一日が終わってしまうのがリアルな夏休みと一緒でもどかしい。軸となるストーリーがあるものの、サブクエストの数はそこまで多くないので、かなりゆったりと過ごすことが出来るのですが、毎日のルーティーンの中にも多くの細かい変化が加わっているので飽きずに楽しめました。
ストーリー
駅前にある恐竜の骨や、近所に住む謎の博士との交流によって進むストーリーは不思議で懐かしい思いを抱かせてくれます。
とんでもないことが起こっているはずなのに、都会育ちのしんちゃんからすれば田舎の変わった風景の一部でしかなく、大人たちのリアクションも小さい。
『ぼくなつ』にも見られたテイストではあるものの、大人に訴えかけるノスタルジーよりも5歳児から見える世界観をより重視していて、親世代が子供たちを見守るような優しい視点で語られる物語は現実とそこからはみ出してしまった想像の世界を無理矢理こじつけることなく自然に融合させているのが素晴らしい。
感想
現実と非現実が混然一体となった子供の世界をゲーム的な記号やお約束を極力排除して作られた世界は、クレヨンしんちゃんを視聴する子供と、かつて子供だった大人が共有できる思い出のようなもの。
以前このブログの『怪獣が出る金曜日』で、「クレヨンしんちゃんの映画に近い」と書いたのですが、本作のような作品は正に綾部和氏こそが適任だったと言えるでしょう。
原作の雰囲気を壊さず、かつここまでオリジナルな要素を大胆に加えながらも自然に見せてしまえるというのは、クレヨンしんちゃんの映画作品特有の自由度もさることながら、綾部氏の持つ作家性との相性が抜群に良かったのだと思います。