みやび通信

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プリンセスピーチ Showtime!(Switch)

プリンセスピーチ Showtime!
グッド・フィール
2024年3月22日
Nintendo Switch


本作『プリンセスピーチ Showtime!』は、マリオシリーズでお馴染みのピーチ姫を主人公としたアクションゲーム。ピーチ姫が主役のゲームとしては2005年にニンテンドーDS向けに発売された『スーパープリンセスピーチ』以来となるが、前作との連続性はない。

以下、クリア後の感想。

※ネタバレなし

 

ゲーム概要

本作は劇場に招待されてやってきたピーチ姫が、その劇場を乗っ取った「グレープ劇団」から取り戻すために奔走するというストーリーが展開される。
劇場には多くの演目が部屋ごとに開演されている。『スーパーマリオ64』(1996年)におけるキノコ城のように、各部屋ごとに様々なバリエーションのコースが用意されている。

 

それぞれの部屋では「騎士」「忍者」「カウボーイ」「スーパーヒーロー」などの演目で主役を演じる役者が行方不明となっており、その穴を埋めるべくピーチが代役として立てられる。一つの役に対して3つのステージがあり、それらを全て攻略すると地下の扉が開き、主役を救出するためのボス戦に挑むことができる。

 

お城のような劇場は5階建てになっていて、各階の部屋を全て攻略するとボスの部屋が開き、倒すことで上階に続く道が開かれる。ボスの扉を開くにはステージに隠された「キラメキストーン」を捧げなければならないが、これはマリオシリーズにおけるスターのポジション。尚、手に入れたコインでは衣装を買うことができ、それによりピーチや今作で相棒を務める妖精「ステラ」を自分好みの見た目に変えられる。
全ての役者を救出してラスボスであるグレープを倒すという流れはマリオシリーズの定型を踏まえていてわかりやすい。

 

マリオシリーズとの違い

さて、構造的にはマリオ64と非常に似通っている本作だが、決定的に異なる特徴がある。それが「演劇」の要素だ。
ステージに入ると、そこで行われていた演目がどのようなもので、消えてしまった主演役者の役回りが説明される。そこで、今回ピーチがどのように立ち振る舞うべきなのかが芝居仕立てでわかるようになっている。基本的に横スクロールアクションゲームのステージで、合間合間に多くのセリフが入るというのはマリオシリーズでは異例のことだろう。これまでのマリオのように、全体的なビジュアルによってプレイヤーに感覚的に解らせる方法もあったはずだが、今回はあえてその定型を崩してまでストーリーに特化したデザインにしている。しかしそれは確実にゲームのテンポを悪くしているし、2週目以降も各キャラクターがセリフを言い終わるまでいちいち待たなければならないのは周回するモチベーションを著しく削ぐ。

 

物語のテンポを優先するあまり、ゲームの方が説明不足気味になっている部分も見られ、一部ステージやボス戦などの難易度を無駄に高めているのも気になった。

では、本作は何故このようなゲームデザインをあえて選択したのか?

 

マリオワールドの拡張

近年のマリオシリーズの動向を見てみると、2021年に「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」の新エリア『スーパー・ニンテンドー・ワールド™』が開業。2023年に映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』配給とゲーム新作『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』の発売が記憶に新しい。
USJのワールドは現実世界でマリオの世界を体験でき、映画では敢えてゲーム的な表現を多用した。ワンダーでは時間制限を排除し、インターネットで多くのプレイヤーと共有する世界が実現されていた。それに加え、ワンダーではプレイアブルキャラクターとして最初からピーチ姫を選択することができる。
ピーチは映画でもマリオを助けるためにクッパ軍団に果敢に立ち向かう勇猛なキャラクターとして描かれていたが、そこからワンダーを経た本作の活躍ぶりは直線的に繋がる。
USJにおける現実世界とのリンクから映画におけるキャラクターのアイデンティティの修正を見るに、マリオというシリーズが、この数年で僅かずつだが大胆な変化を意図的に行っているのは明白だ。
世界的に大きく展開しているシリーズだけに、子供向けとはいえディズニーのようにジェンダー的な配慮をするのは現代においては当然の流れではある。では本作が物語的にそういったテーマを扱っているかというと、そういうわけでもない。

 

思うに本作の物語要素は、現実や映画などの拡張された世界からマリオの世界観に触れた潜在的なゲームユーザーに向けたもののように感じた。
ゆえに本作は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が多くの映画評論家を困惑させたように、ゲーム的な側面だけでは語れない幅を持つ作品となったのではないか。こうした試みが成功と言えるかどうかは今後の展開次第ではあるが、本作に限って言えば、ゲーム的な快適さや快楽よりもテキストによる世界観の説明が優先されており、その融合が上手くいっているかどうかは本作で初めてマリオシリーズに触れるプレイヤー達の反応を窺うしかないだろう。
個人的な感想としては、本作の試みはまだまだ発展途上にあり、周回要素があるにもかかわらずスキップ出来ないテキストがゲーム的な楽しさを阻害している点が残念に感じた。しかし、作品としては非常に質の高いエンターテイメントに仕上がっており、シリーズとしての今後の展開には大いに期待できることは間違いない。
超メジャータイトルであるにも関わらず、様々な垣根を越えていこうとする任天堂というメーカーの底知れぬ野心を垣間見せられた作品であった。

 

 

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