みやび通信

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The Last of Us Part II(PS4)

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The Last of Us Part II
ノーティードッグ
2020年6月19日
PlayStation 4

 

まだあくまでも噂レベルだが『CoD(コールオブデューティ)』シリーズの最新作はベトナム戦争になるのではないかと言われている。

元々CoDのチームが開発に携わっていた『MOH(メダルオブオナー)』は実在の戦争を題材としたFPSの先駆けで、初期開発の構想にはスティーヴン・スピルバーグが関わっていることから明確に「反戦」というテーマを打ち出す作品をどこかで出すと予想はしていたし、その舞台はきっとベトナム戦争になるであろうこともスピルバーグの思想を踏まえれば容易に予測できた。

だが、そうはならなかった。

オンラインでのPVPによって爆発的な人気を得たFPSサバゲー的な方向へ舵を切ることにより、初期のMOHシリーズが内包していた死の匂いを感じさせる戦争シミュレーション要素は限りなく薄まり2018年発売『コール オブ デューティ ブラックオプス4』ではキャンペーンモードが廃止された。

結果的に戦争ゲームはストーリー性から遠ざかることで「ゲームの暴力性」という問題から逃れられた。所詮はゲーム、オンラインで仲間たちとワイワイ楽しむごっこ遊びである、と。

 

近年のストーリー性重視のゲームのテーマが軒並み重たいものになっていることを考えれば、FPSのカジュアル化はゲーム全体のバランスとしては良かったのかもしれない。

ただ私は『メダル・オブ・オナー 史上最大の作戦』(2002年)や『メダル・オブ・オナー ライジングサン』(2003年)のような重たくて血の匂いのする死屍累々の上に築かれた勝利の先にあるベトナムが見たかった。

泥沼化する代理戦争を各国の一兵士視点を通じて見ることで戦争シミュレーションゲームは一つのピークを迎えるのではないかと勝手に夢想していたのだ。

 

そしてその夢想は今作『The Last of Us Part II』で現実のものとなった。

プレイヤーは前作での感動の下に埋もれていた多くの屍に復讐される。

愛する者はゴミのように殺され、一瞬で死体という「もの」に変わる。

フラッシュバックする記憶がエリーを悩ませ、復讐に駆り立てる。

 

そして反転。

プレイヤーはエリーの愛する者を殺した側、アビーというキャラクターを操作することになる。

この嫌悪感。

ゲームを進めて行くと、こういったネガティブな感情を幾度も経験することになるが、そこを乗り越えることでプレイヤーの前作の経験から来るバイアスが剥がされてキャラクターへの理解は深まる。

大まかなストーリーだけを説明すれば『The Last of Us Part II』の物語はありきたりな復讐劇のように見える。テレビドラマ『ウォーキング・デッド』を熱心に見ているような人からすれば尚更そう思えるだろう。

だが、例えば『ウォーキング・デッド』で突如ニーガン編が始まったとして同じような気持ちになるだろうか?

The Last of Us Part II』はゲームの目的が鑑賞ではなく体験であることを最大限に利用して最大の効果を上げている。しかも分岐のないレールプレイによってプレイヤーにこれほどまでに様々な感情を喚起させるゲームがかつてあっただろうか。

今作には前作にあったような人類の未来に影響を与えるような大きな目的もなく、集団同士の大きな争いや世界の変化もない。

全ては個々のキャラクターの感情の揺れに左右され、それらの演出は言葉よりも繊細なグラフィックによって表現される。

あらゆるキャラクター、犬にまで個々に名前が付けられ、彼らが絶命する時にあげる叫び声は苦悶に満ち、いつまでも耳にこびりつく。

 

私は『アンチャーテッド』の1作目がどうしても好きになれなかった。

宝探しをする明るい性格の主人公ネイトの話にしては人が死に過ぎるからだ。たとえ悪人だとしてもリアルなグラフィックで描かれた人間を大量に殺すのは良い気分ではなかった。

2作目は傑作だとは思うが、それはこちらが「そういうゲーム」なんだと慣れただけであって根本的には何も解決していなかったし、『The Last of Us』の1作目にしてもやはりそういった嫌悪感は残った。

初代『The Last of Us』では主人公ジョエルが人間の敵を殺すたびにエリーに「殺さなくても!」「ひどい!」などと罵られる演出があったので開発側にもそういった意識があるのだなとは思ったが、今作ではそういった暴力表現そのものをゲームの軸に据えたことできっちりと落とし前を付けている。

 

ゲームの暴力表現に対して批評的なスタンスを取っているゲームは今までいくつもあったが、今作ほど深く切り込んだ作品を私は知らない。

アクションゲームに暴力は付き物だが、最初に挙げた戦争シミュレーションを例に挙げるまでもなく、逃げ道はいくらでもあったはず。

だが『The Last of Us Part II』は地獄での愛憎劇によってプレイヤーの心を揺さぶりながら前作に対する批評を促し、これまでのノーティドッグ作品の総括を目指したのではないか。

その覚悟はゲーム画面から確かな説得力と迫力をもって伝わってくるし、シナリオは私が今までプレイしてきたゲームの中でもトップレベルに美しい。

傑作だと思う。

 

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