みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

くまのレストラン(Switch)

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くまのレストラン
Odencat
2021年6月17日
Nintendo Switch.Android.iOS

 

本作『くまのレストラン』は2018年にスマホアプリとして配信され、全世界で100万DLを記録した大ヒット作。Odencat開発の家庭用移植は本作が初。

 

ストーリー

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死んだ人間が乗る天国or地獄行きの列車。

その乗り場がある街に佇む一軒のレストラン。店長はなぜか「くま」で、ゲームが開始されるとプレイヤーは店員の「ねこ」を操作して店の手伝いをすることに。

 

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あの世へ旅立つ前の客に思い出の料理を出すのがこのレストランの役目ですが、彼らしか知らない料理はレシピがないと作れないため、客との会話をヒントに記憶の中へダイブしてレシピを手に入れなければなりません。

 

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他人の記憶の中へダイブすることにより、彼らの生前の暮らしや亡くなった原因が明らかに。「いじめ」「ひきこもり」「インスタ女子」といった身近に感じられるテーマから「独裁者」「マッドサイエンティスト」まで、幅広いテーマを持つ物語が小気味良く続きプレイヤーを飽きさせません。

 

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そして物語のメインテーマとして、何故「くま」と「ねこ」だけが動物の姿をしてこの場所にとどまっているのかが明らかになっていきます。

レストランで様々な人の死を見送りながら、「くま」と「ねこ」が抱える「家族」の問題がどのように帰結するのかが最大の見どころ。

本作は実質シナリオを読み進めていくだけのアドベンチャーゲームですが、SFC時代のJRPGを彷彿とさせる幅広い展開が用意されており、この規模のゲームとしてはかなり贅沢な作りになっています。

 

ドット絵による表現

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海外のインディーゲーム開発者の中には、SFC時代の日本のゲームから受けた影響を公言している方も少なくなく、彼らの作るピクセルアートからは、懐かしさと新しさが混在したような強いインパクトを受けますし、最近ではJRPGの本家ともいえるスクウェア・エニックスがそういった需要を意識して2D作品を積極的に制作しています。

本作 『くまのレストラン』が秀でている点は、これらの作品群にはない、かつてのドット絵が持っていた絶妙な空気感が再現されているということ。

物語に合わせたテンポ感やあたたかみなど、近年のドット絵表現に足りない何かが確実に再現されているように感じられました。上の写真にあるネズミのダンスや、調理における一連のシークエンスなど、一つ一つの動きに生命が宿っているような説得力があります。

 

私は当初本作をスマホアプリで遊んでいたのですが、この素晴らしいアニメーションが自分の指で見えなくなるのが嫌でSwitch版を購入したほど。

実際大きなテレビ画面に映し出しても本作の魅力は失われることがなく、十二分に楽しむことができました。

 

感想

この素晴らしいドット絵職人のアニメーションを家庭用ゲーム機で堪能できることに喜びを感じつつ、一方でシナリオ面では大きなモヤモヤを抱いてしまいました。

これは単純にシナリオの良し悪しやボリュームの問題ではなく、基本無料のスマホアプリと家庭用ゲーム機という環境の違いが、思ったよりも深刻な齟齬を生んでいるのではないかと。

通常の漫画とウェブトゥーン(※1)との違いにも似ていて、同じ読者を抱える同じジャンルの作品であっても、読む媒体や、読まれる環境に合わせて全く異なるアプローチが取られます。

『くまのレストラン』という作品は、「ショッキングな他人の死」を細かく連続的に繋げることで物語の引き(※2)として機能させながら、彼らの人生とは直接関わり合いのない「くま」と「ねこ」の話を合間に挟みつつ進行していきます。

この手法は十数話から成る連続ドラマでは至極真っ当であり、速読が可能なウェブトゥーンや、通勤通学などの空いた時間にプレイするスマホアプリにおいても最適な手段だと考えられ、実際多くのPage Viewを獲得しているウェブトゥーンの作品群にはその傾向が強く見られます。

しかしこれが家庭用ゲーム機でのプレイとなると、一本の繋がった作品として捉えられるため、多くの家庭用ゲーム作品は映画的な表現に依存します。

本作を映画的な視点で評価すると、ひとつひとつのシナリオの掘り下げが浅く、本筋との接続が不完全な状態で、観客に考える隙も与えないほどスピーディーに展開していくので内容があまり残らない、といったものになるかと。

観客を飽きさせない為だけに挿入される「ショッキングな他人の死」も、プレイ環境の変化により引きとしての機能が弱まると、途端に露悪的な表現に見えてしまいます。

プレイヤーが物語に醒めた瞬間、素晴らしいドット絵の心あたたまる物語が、お涙頂戴の安っぽい物語に変貌を遂げてしまう。

しかしそれはこの作品の本質ではないと思うのです。

本作はあくまでもスマホでプレイされることを想定し、それに特化した表現方法を選択し、そこで大きな結果を残した作品だという事。

これからSwitch版でプレイしようとしている方も、一度スマホで無料部分を遊んでから、テレビ画面で素晴らしいドット絵を堪能するのが最適かと思います。

 

 

※1 ウェブトゥーン…韓国のデジタルコミック。日本では主にLINEのアプリで読まれることが多い。縦スクロールで読むものが多く、コマやセリフ量は最小限に抑えられている。近年ではネットフリックスにてドラマ化され大ヒットした『梨泰院(イテウォン)クラス』などがある。

 

※2 引き…主に連続ドラマにおいて、続きが気になるよう視聴者を引き付けておくための手法。

 

 

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