VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action
Sukeban Games
2019年03月08日
Nintendo Switch、 PlayStation 4、 Microsoft Windows、 macOS、 Linux、 Mac OS、 PlayStation Vita
『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』はベネズエラ出身のChristopher Ortiz氏とFernando Damas氏という二人のクリエイターが運営するSukeban Gamesによるインディーゲーム。
初配信は2016年で、日本ではVITA版が2017年に発売されましたが、2019年にようやくPS4とSwitchで発売。
一週目クリア後の感想です。
※ネタバレなし
舞台は西暦207X年のグリッチシティという未来の架空都市。
その一角にある小さなバー「VA-11 Hall-A」の店員「ジル」として来店する客にカクテルを振る舞い話を聞くことがこのゲームの軸になります。
バーにいる間は基本ジルの姿が見えない主観視点になっていて、客と対面で会話していきます。
ベネズエラでは割と日本のアニメがポピュラーで、開発者の2人が自然と馴染んでいた影響がゲームの随所に見られます(※) それ以外にも様々なSF作品の要素が詰まった世界観となっているため、SF・サイバーパンクの知識があれば今作をより深く楽しめるでしょう。
※ Christopher Ortiz氏とFernando Damas氏はIGNJの取材に対して、好きなアニメに『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『機動警察パトレイバー』『エヴァンゲリオン』『カウボーイビバップ』『サムライチャンプルー』『東京ゴッドファーザーズ』『魁!!クロマティ高校』を挙げている。
バーの客層はバラエティに富んでいて、それぞれのキャラの個性がとても強い。
アンドロイドにホワイトナイト、ストリーマーに女子高生など、皆が同じ街に共存しながらそれぞれ全く異なる考えを持っています。
『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』が他のアドベンチャーゲームに比べて異色なのは、バーの外で様々な事件が起こったとしても主人公が直接干渉しないということ。
ひとつの出来事に対して個性的な客たちの様々な角度の意見を聞いて、自分の頭の中で物語を構築していくというゲーム性は一見変化球に見えて、会話によって物語を組み立てていくという構造自体はアドベンチャーゲームの王道。
ただ、一般的なアドベンチャーゲームとは異なり謎解き要素がないので、自分から積極的にこのゲームの世界に対する興味を広げていくことが前提。
バーの同僚や客との会話内容はどれも機知に富んでいて、専門用語を含めた語彙も豊富なので、楽しみながらもポイントを押さえ、好みのお酒のヒントを聞き逃さずに憶えておけば親交を深めることも出来ます。
あと、このバーではLGBTの話題が頻繁に飛び交い、性的な目的で作られ自我を持ったアンドロイド(セックスワーカー)なども来店するので下ネタ耐性も必要。
他にも日本のオタク文化やインターネットミームなどが『シュタインズゲート』並みに出てくるので、それを大きな括りでのサイバーパンク世界の掘り下げと取れるかどうかもポイント。さらには同時期に開発されたインディーゲーム『2064: Read Only Memories』『YIIK: ポストモダンRPG』ともコラボしているので全てを把握するのは困難。
しかしそれらのマニアックな知識を抜きにしても映画『ブレードランナー』や『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』『AKIRA』など、最低限のSF知識さえあれば本筋は楽しめるものになっています。
主人公ジル
仕事がひと段落するたびにマンションの自室場面へ。
ここではネットニュースを見たり、買い物に行って部屋の模様替えをすることが出来ます。あまり買いすぎると部屋の家賃が払えなくなるので注意。
基本的にはバーと自室の行き来でゲームが進行するのですが、中盤を過ぎた辺りからジルの物語が動き出します。
ここに至るまで舞台となる世界観や人間関係をプレイヤーに把握させ、しっかりとゲーム内のリアリティを構築した上で主人公の物語を起動する流れは感情移入の装置として秀逸。
音楽の素晴らしさ
PS4版発売前から本作の評判は聞いていたのでBGMは事前にサブスクで予習済。初回特典CDが欲しくて予約もしました。
2019年はK-POPとLo-fi Hip Hop、そしてこの『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』のBGMを作業中にヘビロテ。レトロなシンセとローファイなドラムマシンが奏でる近未来的な音楽は心地よく、ずっと聴いていられます。
Lo-fi Hip Hopの少し後に韓国でシティポップが流行り出したのですが、そこでも80年代的なヴィンテージシンセの音と日本のサイバーパンク系アニメの動画がセットになっていて本作と共通するものが多く驚きました。
ゲーム序盤に「飲み物とおつまみを用意して、リラックスした状態でプレイしてください。」というメッセージが出るのですが、ゲーム内のバーではジュークボックスを操作して好きな曲を好きな順番で流すことが出来ます。
このカスタマイズ要素と曲と世界観の組み合わせが凄く2019年っぽいなと個人的に思ったり。
BGM同様、ゲーム自体にもそこまで新しさはないのに古びない魅力があり、それが興味の持続に繋がっているのだと思います。
カクテル作り
本作で唯一のインタラクションを担うカクテル作りですが、出てくるカクテルは架空のもので親しみがわかず、スティックを斜めに倒した状態での操作が要求されるのでミスを誘発しやすく面倒だと感じました。
もとがPCゲームなのでゲーム用コントローラーとの相性が悪い。
やっていく内に慣れましたが、本当に「仕事」という感じで、バーテンのロールプレイとして意識的に楽しめなければ少々辛いかも。
カクテル作りは、キャラクターに注文された商品を提供するか、その場の空気を読んでアレンジするかで物語の分岐に影響する重要な要素になっています。
まとめ
インディーゲームとして大ヒット(発売年の売上が約20万本)した本作ですが、感想としては「個人的には大好き」としか言えない感じ。おそらくそういった想いの強い人達に愛されているタイプの作品なのではないかと。
テーマも小ネタもマニアックで、刺さる層は限られているでしょう。
だからといってゲームのストーリーとして難解というわけではなく、現代的な問題に通じるものも多く、多くの人にプレイしてほしいゲームです。
開発者自身が「想定外のヒット」と言っている通り、この手の作品に反応できるゲーマーがいつの間にか多く育っていたという事なのでしょう。
今年の11月には大作ゲーム『サイバーパンク2077』も控え、80年代リバイバルが盛り上がりを見せている昨今ですが、その中でも異彩を放つ本作『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』は特に心に残る作品で、一周遊び終えてもまだまだ興味が尽きない魅力を持っています。
© SUKEBAN GAMES All Rights reserved. Published by Ysbryd Games, Active Gaming Media Inc.