みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

Return of the Obra Dinn(Switch)

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Return of the Obra Dinn
ルーカス・ポープ
2019年10月18日
PlayStation 4,Nintendo Switch,macOS,Microsoft Windows,Mac OS,Xbox One

 

『Return of the Obra Dinn』は埼玉在住(2021年現在)のクリエイター、ルーカス・ポープ氏による個人製作のゲーム。

このルーカス・ポープ氏、Naughty Dog時代には『アンチャーテッド 黄金刀と消えた船団』(2009年)等の開発に携わり、後に独立。2013年には、共産主義国家の入国管理官を題材にしたゲーム『Papers, Please』で全世界から高い評価を得ています。

個人で4年半もの歳月をかけて作り上げた2作目にあたる本作『Return of the Obra Dinn』も、2018年にSteam版が配信された時点で多くのユーザーから絶賛され、Switch版の発売によりさらに多くの人に遊ばれ、今やルーカス・ポープ氏への評価は絶対的なものとなりつつあります。

 

以下、クリア後の感想です(※ネタバレなし)

 

1ビットの世界

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静止画や動画では上手く伝わりませんが、1ビットのピクセルアートによって描かれた3Dマップの世界は、実際に自分の手で動かしてみると、既存のゲームにはない独特の感触に驚かされます。

 白黒写真の粒子のような細かいドットで描かれたグレースケールと、ハイライトを強調したゲームボーイ画面のようなレトロなビジュアルが混在する空間はかなり独創的。

 

総勢60人の登場人物からなる死のパズル

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1803年の航海中に消息を絶ったオブラディン号が1807年に帰省。中は無人で数体の白骨化した遺体があるだけ。

主人公は保険の調査員としてオブラディン号に何が起きたのかを調べていきますが、一人の生存者から送られてきた懐中時計を死者の残留思念にかざすと、事件現場の声と、その瞬間で止まった映像が立ち現れます。

人物にフォーカスすると、スケッチされた絵の中の人物と照合され、そこから推理して名簿にある名前/職種と死因を特定していきます。

 

一般的な推理ものでは、複数の被害者の死因及び加害者を、生き残った複数の人物の中から特定し考察していくことでドラマが作られていくのですが、本作では細かく区切られた場面のひとつひとつが「死のピース」として固定されており、前後の文脈から考察できるものもあれば、事故死のように独立した事件として解決できるものも含まれています。突発的な犯行と、まるで見当のつかない怨恨による犯行が入り乱れ、重要なフラグを見落としてしまうと途端に難解になることもありますが、事件を3件解くごとに確定のお墨付きをもらえるのでプレイヤー個々の気付きによって様々なルートから答えに辿り着けるようになっています。

 

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手持ちの調査書では見開き2ページごとに一つの事件に関する場面が扱われ、それが時系列に沿って並べられています。この調査書と現場を交互に当たりながら推理していくのですが、主人公以外全く動きのないゲームにもかかわらず、反復するシミュレーションと効果的な音の演出、声優による迫真の演技により、解決した事件現場はまるで目の前で動いていたかのように思い起こすことができます。

個人開発のインディーゲームという制約を逆手に取り、優れたゲームシステムによりプレイヤーの頭の中で全体像を補完させるという、長尺な説明やムービーだけでは成し得ないナラティブを提示しています。

 

感想

あらゆるゲームのセンスが尖っていて、入魂の一作と言うにふさわしい傑作。

ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ファンタジー的な要素も謎に満ちた事件を上手く盛り上げていて、1ビットのピクセルアートから放たれる独特な空気が緊張感とリアリティを保っています。

ひとつの船の中で起きた事件というと『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』に出てくる山奥の別荘に閉じ込められる系を連想しがちですが、本作はどちらかというと『エイリアン』や『遊星からの物体X』などの、余韻を残しつつ終わるSF作品に近いです。

序盤で残留思念を一周した時点で頭が真っ白になり途方に暮れましたが、一つ壁を乗り超えるとあらゆる場面に見逃せない証拠があることに気付き、中盤に差し掛かる頃には絶妙な難易度であると感じられました。

今まで数多くの推理アドベンチャーゲームをプレイしてきましたが、点と点がつながり線になるたび自分の頭の中に小説の文字が浮かび上がってくるような、不思議で気持ちの良い体験は、新しくもあり、同時に懐かしさも感じさせてくれました。

多くの優れたゲームが持っている「想像力の誘導」を推理ゲームで、しかも最低限のテキストだけで実現しているというのは凄いというほかにありません。

 

 

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