Through the Darkest of Times
Paintbucket Games
2020年1月30日
PlayStation 4,Nintendo Switch,Android,Microsoft Windows,iOS,Mac OS,Xbox One
『Through the Darkest of Times』はドイツのHandyGames開発によるインディーゲーム。
時代背景
舞台はベルリン。プレイヤーはレジスタンスのリーダーとなり、仲間を集め、反政府的な活動をしていくことになります。
ゲームは戦略を練って工作活動をしていくストラテジー、テキストを読みながら選択肢によって会話を進めて行くアドベンチャーという2つのパートを繰り返していきます。
1933年から1945年までを4つのチャプターに区切り、ヒトラーがドイツの首相に就任してから第二次世界大戦終結までの歴史が描かれます。
活動できるターンが回ってくるごとに新聞記事が提示され、当時のドイツで何が起きていたのかを知ることが出来ます。
主人公はドイツ人ですが、ヒトラーがドイツの首相に就任し、ドイツが第二次世界大戦に突入していく過程で、ユダヤ人の迫害が街の至る所で散見されるようになります。
こうした場面に遭遇した時、プレイヤーがどういう行動を取るかの選択肢が提示されますが、ほとんどの場合彼らを助けることは難しいでしょう。下手をすれば逮捕され尋問を受けなければならないことも。
本作のストーリーは史実に基づいたリアリティが重視されているため、主人公には何も特別な能力はなく、上手くゲームを進めたとしても過去にあった歴史を変えることは出来ません。
歴史の様々な局面に向かい合いながら、もしもこの場にいたら自分はどう行動したかを考え、そして実践しながら最後まで現実を生き抜くロールプレイが求められます。
第一次世界大戦で疲弊し、貧困に苦しむドイツ国民。そこへ現れたヒトラーにより分断は煽られ、人種の優位性と差別がもたらす熱狂と憎悪が膨らんでいく。
財産を剝奪され、列をなして長い距離を歩かされるユダヤ人たち。死の行進。
それらを何一つ止められないまま、どういった行動が正しかったのかすらわからないまま、物語は残酷に史実をなぞっていきます。
ストラテジー
メインとなるレジスタンス運動はストラテジーゲームとなっており、各キャラクターを配置して資金を集めたり仲間を増やしながらナチス政府へ「レジスタンス=抵抗」すべく様々な工作をしていきます。
仲間には一人一人に性別年齢職業の他、基本的な3つのスキルと固有のスキルが設定されており、特徴を生かせる任務を割り当てていく必要があります。
任務にはそれぞれ危険度が設定されていますが、危険度の少ない無難な活動ばかりしていると画面左上にある「モラル」が下がり、ゲームオーバーになってしまいます。
画面右上に表示されている「支援者」と画面左上の「モラル」、そして資金のバランスを考えながら活動して、無事終戦まで生き延びることが出来ればゲームクリア。
活動していく中で、仲間にスパイ容疑があれば話し合って処遇を決めなければならず、放って置くことで密告され、逮捕されてしまうこともあれば、外で逮捕された仲間を解放するミッションに臨まなければならないこともあります。
女性の仲間なら、結婚や出産で突然抜けることもあれば、離婚してまでレジスタンス運動に残る者もおり、仲間内だけでも複雑な物語が展開されます。
投獄された仲間を放置していると拷問によって殺されてしまうことがありますが、ミッションにはそれぞれレベルが設定されており、何も出来ずに歯がゆい思いをすることも。
アドベンチャーパートでの選択もミッションに反映されるので、プレイごとに展開に変化が加わり、繰り返し遊んでも楽しめる作りになっています。
感想
ナチスドイツが登場するゲームは数多くありますが、一市民としてレジスタンス運動に参加するという設定は珍しく、ストラテジーとアドベンチャーという2つのパートも見事に噛み合っていて、ストレスなく楽しむことが出来ました。
過去の歴史を知っている現在の私たちの視点からすれば、ナチスの政策が間違っていることは明白であるにもかかわらず、歴史的な過ちを正せないという苛立ち。世界中が戦争に狂っている中で、数人のレジスタンスの力はあまりにも脆弱。
本作『Through the Darkest of Times』をプレイすると、戦時下で正気を保ち、人間らしく生きることの困難を嫌というほど体験できるでしょう。
これを書いている2021年現在、世界中でコロナウイルスが猛威を振るい、日本国内では反対意見も多い中、東京オリンピックが開催されています。
ネット上では自国と一体化した人たちによる日本賛美と人種差別的な言葉が溢れ、人命よりも建前を優先した政策は一部海外メディアから欺瞞と喝破されています。
本作中にあるナチスのオリンピックもまた、一部の国民と海外のメディアを騙し切ることは出来ませんでした。
かつての第二次世界大戦で日本と同盟国だったドイツのゲーム開発者が、過去の反省から現在を照らす本作『Through the Darkest of Times』を制作し、そこから私たち日本人が何を受け取れるのか。
当時のナチスドイツのファシズムと、どちらかというとポピュリズムに傾く現在の日本を同列には語れませんが、共通する部分はあまりにも多く、ゲーム体験としてリアリティがあり過ぎます。
社会的テーマを扱った本作はシリアスゲームと呼ばれ、近年のインディーゲームでは一つの流れとなりつつありますが、そんな中で『Through the Darkest of Times』が日本の家庭用ゲーム機で遊べることには大きな意義があると言えるでしょう。
(C)HandyGames