マフィア III コンプリート・エディション
Hangar 13
2020年5月20日
PlayStation 4、Xbox One、Microsoft Windows
『マフィア III コンプリート・エディション』は2016年に発売された『マフィアⅢ』をアップデート、追加DLCを全て含んだ作品。
これらの要素は通常版の『マフィアⅢ』を持っているユーザーも全て無料で利用可能。
1968年アメリカ南部、ニューオーリンズをモデルとした「ニューボルドー」が舞台のオープンワールドゲーム。
ベトナム戦争に対する反戦運動やアフリカ系アメリカ人公民権運動が過熱。
街に点在する様々な店舗に入ることが出来ますが、ほとんどの店では黒人(主人公)だという理由だけで追い出されてしまい、警告を無視して店内にいると警察が駆け付け即お縄。
街のあちらこちらで白人が黒人に暴力を振るっている様子が見られます。
DLCではブラックパンサー的な集団と共にKKKを思わせる集団を皆殺しにしたり、カルト教団のアジトに潜入するなど、当時のアメリカの世相を反映した過激なストーリーが展開されます。
車の運転(主観視点なし)と銃撃戦がメインのゲーム性や、扱っているテーマの方向性からロックスター・ゲームスの『GTAⅣ』の遺伝子を強く受け継いだ作品と言えるでしょう。世界を構成するディテールやラジオの選曲などからもGTAの影響が見られます。
ファストトラベルこそありませんが、ストーリーがある程度進むと「武器屋」「金庫」「自家用車」などを電話一本で即座に呼び出せる便利機能が追加。
本作ではニューボルドーの各地区を次々と支配下に収めながらクリアを目指しますが、仲間となる3人の部下に土地を振り分ける際の選択により受けられる恩恵が異なり、支配下に置いた土地では定期的に上納金を受け取ることが出来ます。
麻薬の栽培や販売によって資金を稼ぎ、序盤で襲撃されボロボロになったアジト(サミーの店)を建て直すミッションがあるので資金管理はとても重要。
主な登場人物
主人公のリンカーン・クレイは20代前半の黒人青年(父親は白人)。
2～3歳の時に両親から捨てられ、1947年から1958年までを児童養護施設で暮らしますが、施設が閉鎖されニューボルドーの黒人ギャング集団を仕切るサミー・ロビンソンに拾われます。
リンカーン自身はまともな生活を望み、ギャングの仕事から一旦身を引いて4年間の兵役に就いており、ベトナム戦争から帰還しサミーのもとへ帰るところから物語が始まります。
サミー一家はイタリアンマフィアのサル・マルカーノに上納金を収めていましたが、最近アメリカ南部に流れ込んできたハイチ人の窃盗団による被害で上納金が払えない状況に。
リンカーンは戦争から帰還後に溶接工の仕事が決まっていましたが、世話になったサミー一家のピンチを救う為、ハイチ人との戦争に身を投じることに。
サル・マルカーノはイタリア系マフィアのボスで、ニューボルドー一帯を仕切る大物。
リンカーンがハイチ人との戦争に勝ったことで、本格的に手を組んで連邦準備銀行強奪という大仕事をやらないかと持ちかけてきます。
しかしそれは罠で、銀行強盗が成功した後、サルはサミー一家を皆殺しにして店を焼き払うという非情な行動に出ます。
サルの卑劣な襲撃から奇跡的に生き残ったリンカーンが真っ先に連絡を取った相手が、CIAのジョン・ドノヴァン。
ベトナム戦争を共に戦った戦友であり、終盤まで詳細は明かしませんが利害の一致もあることから全面的なバックアップを請け負ってくれます。
その他にも多くの個性的なキャラクターが登場しますが、基本的にはリンカーンがドノヴァンの協力のもと、サルに復讐を果たすというストーリーとなっています。
1968
襲撃後のリンカーンが眠っている場面でテレビから流れるキング牧師暗殺のニュース。
同じくベトナム戦争に反対していたJFKが暗殺(1963年)されてから5年後の出来事。
非暴力を唱えていたキング牧師の暗殺により一部の黒人の間で3年前(1965年)に暗殺されたマルコムXの過激な思想が再燃。
60年代という時代は、白人社会においてもロックやニューシネマなどのカウンターカルチャーが花開き、若者たちと大人たちの間で価値観の断絶が起き、60年代後半になると南部で白人至上主義を唱える団体KKKによる黒人弾圧が過激化。
同じアメリカ国民の間で共通の価値観が失われたということは、政治や思想などに皆が同じ夢を見ることが出来なくなってしまったことを意味します。
反戦運動が盛んにおこなわれる一方、長く苦しい戦争に身を投じていく若者たち。
当時黒人はアメリカの人口の10％程度でしたが、ベトナム戦争に参加した黒人は全体の30％以上。
望まれない人種が望まれない戦争に駆り出され、たとえ生きて帰って来ても移民として入ってきたばかりのマフィアの使いっ走りとして生きなければならない。
ゲーム中の重要な場面で流れる『朝日のあたる家』は、ニューオーリンズで貧しい女性が堕落しなければ生きていけなかった半生を歌った曲ですが、本作では歌詞に出てくる女性を男性に替えて歌ったアニマルズのバージョンが使われており、リンカーン・クレイの置かれた複雑な環境や心境と重なるものがあります。
他にもゲーム内で使用されている曲は、ただ単に60年代のヒット曲を並べただけではなく、歌詞の意味やアーティスト、その時代背景を知っていると、より深く本作のテーマを理解出来るようになっています。
本作では家の中にあるタンスから様々な衣装に着替えることが出来ますが、ゲームのタイトル画面で流れる『All Along The Watchtower』を歌っているジミ・ヘンドリックスの衣装も用意されています。ジミ・ヘンドリックスもまた、リンカーンとほぼ同時代(61年)にアメリカ陸軍兵として軍役に就いていた黒人の一人。
無印版からの変更点など
・無印版では✖ボタンが決定でしたが、〇ボタンに変更されています。その他にもボタンの変更がありますが、画面に表示されるボタンのマークは無印版のものがそのまま使われています(2020年10月時点)。情報屋などの敵を捕らえた際の「生かす」「殺す」という選択肢のボタンが逆に表示されるのが致命的。早急に直して欲しいです。
中盤での、ゴミ運搬船を破壊するストーリーミッションの場所が表示されないバグが直っていません。海沿いの敵(マップ上の赤いマーク)が密集する場所を探すと見つかりますが、何故このミッションだけこのような不親切仕様になっているのか謎。
まとめ
単純な復讐劇として楽しめるのはもちろん、時代背景を徹底的にこだわり抜いて作り込むことによりストーリーの厚みやテーマの深さが増していて、ゲームとしての強度が高い。マフィアシリーズオリジナルのゲームエンジンによって再現された60年代独特の空気感も最高で、ラジオで音楽を聴きながら適当にドライブしているだけでも楽しい。
ラスボスのアジトへ向かう場面で突然サム＆デイヴの『Hold On, I’m Comin’』が流れた時には胸の高鳴りが最高潮に。
複数あるエンディングも1周で簡単に回収できる親切設計。衣装やビジネスなどの箸休め的な遊び心も嬉しい。
ゲーム部分に関しては上の【無印版からの変更点】に書いたもの以外では、無印版から細かいバグが直されて遊びやすくなっていました。
本作の開発は主に白人のスタッフが中心となっていますが、「現在の白人の立場から60年代のアメリカ南部を黒人の視点で描いた作品」という意味では「イギリス人から見たアメリカ社会」を構築するロックスター・ゲームスのオープンワールド理念に忠実で、そこからさらにブラッシュアップを重ね、傑作として完成された希有な例といえるでしょう。
ストーリーがどうこうというよりも、その背景が、ディテールが、リンカーン・クレイというアンチヒーローの焦燥感を煽り、プレイしているこちらの感情を揺さぶる。
DLCでは3つのストーリーが追加されていますが、島1個分のマップが追加されていたりと力の入れようが凄い。
それら全ての要素が最終的に本筋であるストーリーに集約されていく無駄のなさと統一感は圧巻で、数あるオープンワールドゲームの中でもトップレベル。
ゲーマーはもちろん、音楽や映画好きの方にも是非遊んでほしい大傑作ゲーム。
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