みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

The Good Life(PS4)

The Good Life
White Owls
2021年9月30日
PlayStation 4Xbox OneMicrosoft WindowsNintendo Switch

 

本作『The Good Life』は大阪を拠点とするゲーム開発スタジオ「White Owls」によるインディゲーム。原案、脚本、監督は「SWERY」こと、末弘秀孝氏が務めた。末弘氏は、あの2010年の問題作『Red Seeds Profile』の作者でもある。

以下、ストーリークリア後の感想。

※ネタバレあり

 

多額の借金を抱え、ニューヨークからイギリスの田舎町レイニーウッズでスクープ写真を撮ることで借金返済を目指す主人公ナオミ・ヘイワード。ナオミはモーニングベル通信の依頼を受けて活動するフォトグラファーだが、そのキャラクターはかなり個性的。口癖は「くされ地獄だぜ」

 

レイニーウッズに暮らす住人達も相当に個性的で、気難しそうな面々が揃ってはいるが、何故かナオミは歓迎され、小さいながらも立派な畑付き一軒家を与えられる。
家では料理を作ったりシャワーを浴びたり睡眠をとることができる。家具などの配置はないが、特定のサイドクエストをクリアすることで拡張可能。畑も同じく拡張でき、育てられる植物の数が増える。

尚、この街の住人たちは『シェンムー 一章 横須賀』のように一日の行動がスケジュール管理されているので、気になるキャラクターがいたら観察してみるのもいいだろう。

 

長時間シャワーを浴びなかったり化粧を怠っているとハエがたかる演出は『SIMS』を彷彿とさせるが、これは『Red Seeds Profile』でも採用されている。他にもSIMS的な要素として「健康」のメーターがあり、「風邪」や「頭痛」を治療するための診療所があり、携帯用の治療薬も販売されている。

 

夜になると犬や猫に変身するレイニーウッズの住人たち。謎を追いかける中でナオミ自身も犬と猫に変身する能力を身に付ける。しかも、昼夜問わず自由自在。
それぞれの特徴として、猫はそのジャンプ力を生かして塀を飛び越えたり壁をよじ登れる。犬はゴミ箱を漁ったり穴を掘ってアイテムを入手でき、高い嗅覚で覚えた匂いを辿る探偵能力を発揮。狩りをする際の攻撃力も犬の方が高い。縄張りを確保するためにおしっこをしなければならないのだが、これがなかなか豪快で、時折ナオミがぼやく気持ちもわかる。
それぞれを使用する頻度により「犬派」「猫派」の属性が付き、街の住人との会話内容が変化。
ただ、犬猫それぞれでしか手に入らないアイテムはなく、だいたい被ってしまうので、塀を乗り越える時は猫で、それ以外は犬の方が使い勝手が良いと感じた。2017年の末弘氏インタビュー(※)によれば、もともと本作は「キャットバージョン」「ドッグバージョン」という2種類のバージョンを発売する予定だったようだ。こうした初期構想との間に生じた歪みは様々な場面で見られるが、結果的に犬猫切り替えて遊べるのは単純に楽しいと感じた。

 

他にも、ナオミが変身していない状態で乗れる羊は牧場で複数飼育でき、毛を狩れば服の素材などで使う羊毛が手に入る。
捕らえた羊を牧場へ持ち帰るといくつかの候補から名前を付けられるのだが、これが末弘氏の趣味全開のユーモアが炸裂していて面白い。いくつか挙げると「サイコパスさん」「シベリア超特急」「シェイクスピアかぶれ」など。とても羊に付ける名前とは思えないが、不意を突かれて笑ってしまった。

 

本作のもうひとつの大きな特徴が、カメラによる写真撮影だ。撮影した写真はSNS「FLAMINGO」に投稿し、【エモいね!】を多く得ることで報酬の額が上がる。流行の【ホットワード】を参考に被写体を選択すれば効率よくお金を稼ぐことができるだろう。ゲーム開始当初のナオミはレトロな白黒カメラしか持っておらず、是非ともお店で売っている一眼レフカメラや望遠レンズが欲しいところだが、とても手が届く値段ではない。なので、仕方なく中古のカメラを使うしかないのだが、これがしょっちゅう故障する。修理代自体は安いが、夜は閉店しているため撮影を断念することもしばしば。このことについても2017年の時点であった「ナオミも夜しか変身できない」(※)という初期構想の名残だろう。こうしたズレが、逆に本作の自由度を上げているのが末弘作品らしいといえばらしい。

 

さて、ここまでの紹介からすれば、本作はさしずめ「ほのぼの生活系」にSNSと変身要素をプラスしたオープンワールドゲームともいえる内容に思えるだろう。
しかし、チュートリアルを終えるかどうかの地点で物語は衝撃的な展開を迎える。
突如、猟奇殺人事件が発生し、犯人は肉眼でとらえられない高速移動で逃げ去った!
この、まさかの『Red Seeds Profile』感あふれる展開!

 

ここからのストーリーは事件の謎を追いつつ、エクスカリバーのような剣を手にし、ミステリ・SF要素満載のごった煮状態で突き進む。その間にももちろん、犬になってマーキングしたり、野菜を育てたり、街の住人のお使いクエストを「退屈なRPG」だのとぼやきながら借金返済生活を送っていかなければならない。

 

最終的には、なぜか陰謀論の片棒を担ぐハメになり、その落とし前を付けるために自らのSNSの影響力を逆利用したハッシュタグ運動で「逆村おこし」を成功させる。そして、その発端となった殺人事件は未解決のままバーで酒を飲みつつエンディングを迎える。いやむしろ、殺人事件に関しては謎がより一層深まったともいえるだろう。

 

「一応ゲームにエンディングはあります。でもこのゲームの最大の目標はエンディングの後、本番が始まるというか、永久に遊んで欲しいなあというそういうゲームを作りたいんですよ。」(末弘氏)

 

本来このゲーム、オンラインマルチプレイを意識したつくりとなっているが、残念ながらマルチプレイの話はなくなったようだ。だが、2023年3月に12のサイドクエストが入った追加DLC 「もっと知りたいレイニーウッズの秘密パック」が配信された。そちらももちろん追々レビューしていきたいが、本作だけでも私にとっては十分魅力的なゲームだった。様々な問題が置き去りにされながら、それらが逆に他では味わえない奇妙な体験を与える結果となっており、ストーリーの謎もただ単に放ったらかしなのではなく、様々なジャンルのエピソードを高速スライドで見せられているような楽しさがあった。

プレイヤーの心情とリンクするように、ナオミがサブカル&メタ発言を交えながら常にぼやき続けるのもよかった。そんなナオミに細かいツッコミを入れ続けるナレーションも秀逸。
ただひとつ難点を挙げるなら、装備品をクラフトするために必要な素材条件が厳しすぎて、着替えなどをあまり楽しめなかった。本来ならばストーリーの進捗状況に合わせてカバンを拡張していきたいところだったが、結局初期装備のままクリアしてしまった。クリア後も数時間がんばってみたが、かなり厳しいと感じた。

 

総評として、本作『The Good Life』は、ディテールにおいて様々な欠点を残していながらも、全体的には末弘氏のファンは勿論、箱庭系のゲームが好きな人なら絶対楽しめるであろう、奇妙な魅力が詰まった傑作アドベンチャーゲームとなっていた。

 

 

※「The Good Life」クリエイターSWERY氏特別インタビュー(GAME Watch 2017年10月6日)

 

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