みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

ROAD 96:MILE 0(Switch)

ROAD 96:MILE 0
DigixArt
2023年4月4日
PlayStation 5、PlayStation 4Xbox OneMicrosoft WindowsXbox Series X/S、Nintendo Switch

 

本作『ROAD 96:MILE 0』は、2021年のゲーム『ROAD 96』の前日譚を描いた作品。『ROAD 96』が無名の少年少女たちを操作して国境を目指すロードトリップアドベンチャーだったのに対し、本作では二人の主人公が国外脱出を決意するまでの逡巡をドラマとして見せることに主眼が置かれている。

 

ストーリー

前作『ROAD 96』と同様、本作は90年代の独裁主義国家「ペトリア」を舞台とし、国内は大統領である「タイラック」の像やポスターで埋め尽くされている。独裁政府に反抗する団体「黒い旅団」はテロ組織であるとされているが、その根拠となる「86年の壁襲撃事件」が、実は政府の自作自演ではなかったのか?という噂がまことしやかに囁かれる。


今回の舞台はペトリアの高級住宅地「ホワイト・サンズ」。そこに住む二人の若者「カイト」と「ゾーイ」を交互に操作して物語を進めていくが、前作同様、会話での選択や行動によりルートが分岐する。主人公たちの思想が「大統領寄り」であるか「黒い旅団寄り」かが画面の左上に常に表示されているので注意深く見ていこう。

 

カイト

主人公の一人であるカイトは前作には登場していないキャラクターだが、2016年のゲーム『ロスト・イン・ハーモニー -Lost in Harmony-』の主要キャラクターだ。『ロスト・イン・ハーモニー』はスケボーに乗ってステージをクリアしていくリズムアクションゲームだが、この設定とゲームシステムは本作にも受け継がれている。

 

カイトは高級住宅地ホワイト・サンズで低賃金で働く両親と安いアパートで暮らしながら国外脱出を夢見る少年。反政府的な人脈の中で黒い旅団のことを知り、脱出に向けて動き出す。
黒い旅団のモデルはおそらく19世紀以前のアメリカにおける秘密結社「地下鉄道」だろう。こうした組織は人種や役職で統一されているわけではなく、思想による繋がりが強いため、当然ながら親しい隣人に話すことも憚られる。本作におけるカイトは、ゾーイとの友情に揺り動かされながらも、弱さと危なっかしさと理想がないまぜになったリアルな少年として描かれている。特にアジトでのゾーイとの会話におけるカイトのセリフは、彼の心情の機微が切実に伝わり、心を刺す。

 

ゾーイ

一方、もう一人の主人公ゾーイは前作でも主要なキャラクターとして登場している少女で、カイトの親友。ゾーイの父親は政府高官であり、カイトが黒い旅団との関係を深めていく中で引き裂かれる。86年の壁襲撃事件が政府の仕業であることを信じ切れず、物語終盤では証拠となる文書を手に入れようと、カイトと共に奔走する。

 

部屋にはロック、ニューウェーヴ系のレコードやポスターが散見されることから、思想的な柔軟性を持ちつつも、父親を疑うことには罪悪感を感じていることが窺える。プレイヤーはゾーイを操作して彼女の方向性を決定付けしていくわけだが、特に前作をプレイ済みであると政府の欺瞞は自明なことなので、多くのプレイヤーは迷うことなくカイトの協力者になってしまうだろう。ゾーイのストーリーは、そうしたプレイヤーの行動を織り込み済みで進んでいくので、プレイアブルキャラクターとしての存在感は薄い。彼女は前作で十分強い個性を発揮していたキャラなので、本作ではあくまでもカイトの本質を引き出すための役割に徹しているといえるだろう。

 

立場の違う二人の若者の友情を描きながら、中盤でカイトの家が警察によって家宅捜査を受ける所から物語は国外脱出に向けて加速する。前作で登場したキャラクターとの関わり、黒い旅団との邂逅を通してカイトとゾーイの関係性は否が応でも変わってしまう。ラストシーンで二人は対立し、プレイヤーは両者のセリフを交互に選択することを迫られる。しかし、こうした演出を試すには、もっと深い物語体験が必要だと感じた。ゾーイがカイトに腹を立てるに至る描写が足りず、前半に二人が心を通わせる決定的なイベントも欠けていたように思う。とはいえ、前日譚としては申し分ない作りであることは間違いなく、前作のファンならば満足できるだろう。

 

スケボー

さて、ここまで本作のストーリー部分について語ってきたが、本作のゲームプレイの約半分はスケボーアクションゲームとなっている。物語の合間合間にカイトとゾーイの心情や、現在の状況を反映したステージを攻略していく。ゲームは「ジャンプ」「しゃがみ」という二つのアクションによる簡単操作だが、固定された視点ではコースが把握し辛い場面が多く、あまり爽快感はない。終盤、赤を基調としたステージで赤外線を避けるステージがあったりと、ストレスに感じる部分も少なくない。ビジュアル的には80年代のポップミュージックにこだわりの強い本作らしさが出ていて、楽しめる部分もあるにはあるのだが、あまりにも頻繁にプレイさせられるため、物語の連続性が損なわれているのが残念。

なにより、ストーリー体験を主軸としたゲームプレイにおいて、スケボーステージでのスコアの評価が低いと単純にこちらのテンションも下がるし、高得点をとっても物語に変化がないのでリプレイする気になれない。

 

感想

本作は、ライフイズストレンジにおける『ビフォア ザ ストーム』のような立ち位置の作品ではあるが、『ROAD 96』の主人公は無名の若者たちなので没入感はだいぶ落ちる。ゾーイを含む、前作の旅の途中で出会ったキャラクターはどれも魅力的ではあったが、彼らの個性がかならずしもゲームの本質だったとは言い難く、限定的な交流であったからこそ強く印象に残ったという側面があったことは否めない。

決して悪い作品ではないが、良質な脚本にスケボーゲームが冷や水を浴びせているような感じもあり、全体としては微妙なものに仕上がってしまった。

 

 

Road 96 - Mile 0 ©2022 PLAION GmbH. Developed by DigixArt Entertainment. All Rights Reserved. Published 2023 by Ravenscourt. Ravenscourt is a division of PLAION GmbH, Embracer Platz 1, 6604 Austria. Ravenscourt and its respective logos are trademarks of PLAION GmbH. All other trademarks, logos and copyrights are property of their respective owners.