みやび通信

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台北大空襲 Raid on Taihoku(Switch)

台北大空襲 Raid on Taihoku
迷走工作坊
2023年9月21日
Nintendo Switch、Steam

 

本作『台北大空襲 Raid on Taihoku』は、台湾のアナログゲーム開発株式会社「迷走工作坊」による作品。本作は同社によるアナログゲームが原作となっている。

 

本作の世界は史実を基に組み立てられたディテールの上に、戦渦に巻き込まれた少女の視点で描かれている。
日本では今年2023年4月から広島の原爆投下を題材としたマンガ『はだしのゲン』が学校教材から削除されたが、台湾においても本作のテーマである第二次大戦下の出来事の多くが教科書から削除されており、現在60歳以下の多くの台湾人が空襲の事実を知らない。或いは、空襲の事は知っていても、どこの国から受けたものなのかがわからないという。
そうした現状を踏まえ、本作は終戦となる1945年当時の台湾の歴史を台湾・日本・アメリカの人たちに正しく認識するきっかけを与えてくれる作品となっているだろう。

 


第二次世界大戦中に台湾に対して行われた爆撃は15,908回。投下された爆弾84,756個、焼夷弾35,463個、投下された爆弾の合計は120,219個、総重量20,242トンであった。

 

死者6,100人、行方不明435人、重傷3,902人、軽傷5,335人


2017年4月6日公開の「The News Lens」の翻訳記事 TNL 編集部 翻訳者:椙田 雅美

 

これらの数字が指し示す事実だけでも当時の台湾の惨状がわかるし、それが歴史から消えかけていることには危うさを感じる。
迷走工作坊の代表・張少濂氏は本作を制作するきっかけに彼の祖父からの影響を挙げているが、これは同じく台湾の歴史を描いたゲーム『返校』においても、作者の祖父からの話を基に制作されたという経緯が語られているのが興味深い。
終戦までの50年間、台湾は日本の統治下にあり、多くの日本的な文化が取り入れられたが、戦後に中国が統治する際にそれらの多くは排除された。本作のオープニングでは神社の鳥居などが描かれているが、このような約80年前の台湾の風景を知る者は現在ではほとんどおらず、そうした失われた風景を伝えているのも本作の重要な特徴のひとつだ。

 

さて本作はマイニンテンドーストアの発売予定のラインナップに加わるのも遅く、プロモーション映像もないため、ゲーム内容が非常に伝わり難くなっている。一見するとストラテジーゲームとも受け取れるスクリーンショットもあるが、実際はステルス要素の強いサバイバル系の内容になっている。
ゲームは主に、主人公の少女「清子」を操作してマップを探索するパートと、俯瞰視点によるサバイバル要素の強いパートにわかれている。

 

サバイバルパートの清子は攻撃が出来ず、傘を開いて子供が投げてくる石を防いだり、爆撃の隙を見てゴール地点を目指さなければならない。体力ゲージが存在し、0になるとゲームオーバー。
時には相棒の犬と行動し、2つのキャラクターを操作してギミックを解いていくことも。Switch版では清子を左スティックで、犬を右スティックで同時に操作する『ブラザーズ: 2人の息子の物語』と同様のボタン配置がとられている。
それに加えて泥棒や特高警察に見つからずにゴール地点を目指すステルス要素の強いステージもいくつか用意されており、小石や煙幕などを上手く使い敵をまく必要にも迫られる。

 

ストーリーは空襲によって記憶の一部が失われた清子が、多くの人との交流を通じて徐々に記憶を取り戻すことで、自分が台湾人として今何をすべきかを確信するに至る経緯が描かれる。
サバイバルパートでは進行に従い難易度が上がり、最初は弱弱しかった清子が逞しくなっていく実感が持てるが、それに伴いアドベンチャーパートの清子の現実に立ち向かう意志も強くなっていく。
日本のアニメ『火垂るの墓』や『この世界の片隅に』に強い影響を受けているということもあり、人間の多面性や、戦争の悲惨さを伝えるための残酷表現も多い。

 

いたるところで手に入るアイテムや人々との会話内容からは当時の台湾文化が垣間見え、とても興味深いものになっている。

 

制作者のインタビューでは「台湾の若い世代の多くはこの歴史的出来事を知らず、中には日本が台北を空襲したと勘違いしている人もいます※」(迷走工作坊・KJ氏)とあるが、本作中では当時の日本兵などによる露骨なアジア人差別が描写され、空襲の人災的な側面と同時に人権が蹂躙されていく恐怖をも同時に描いている。これは決して日本人に悪意を持たせる意図ではなく、戦後の台湾を統治した蒋介石による白色テロを題材とした『返校』と同じく、現在の台湾人のアイデンティティが確立される過程において、彼らの祖父の世代が何と戦ってきたのかを知る上で重要な事実であり、当然発露したであろう感情だと言える。そうした意図は、クリア後の「国民政府が来たから、もう大丈夫。」という清子のセリフに明確に表れている。

 


※サバイバルADV『台北大空襲 Raid on Taihoku』―台湾でも、中には日本が台北を空襲したと勘違いしている人も【開発者インタビュー】2023.4.13 Thu 19:30 gamespark.jp

 

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