みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

Life is Strange: True Colors(Switch)

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Life is Strange: True Colors
Deck Nine Games
2022年2月25日
PlayStation 5、PlayStation 4、Steam、Xbox OneXbox Series X/S、Nintendo Switch

 

本作を開発したDeck Nine Gamesは、本シリーズ一作目の前日譚にあたる『Life is Strange: Before the Storm』(2017年)を手掛けたスタジオ。ライフイズストレンジのIPは現在スクウェア・エニックスが所有しており、シリーズ1~2作目を開発したDontnod Entertainmentは今後新規IPの開発に力を入れていくとの事。脚本もこれまでの作品を手掛けてきたJean-Luc Cano氏が外れ、Deck Nine GamesのFelice Kaun氏が務めた。

まず初めに言っておきたいのが、Switch版はロード時間がめちゃくちゃ長いのでお勧めできないということ。タイトル画面が表示されるまでも真っ黒な画面がしばらく続き、Switch本体が壊れたのかと思ったほど。
というわけで、クリア後の感想です。

※ネタバレなし


ストーリー

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アメリカのコロラド州にあるヘイブン・スプリングスという小さな町が舞台。
主人公は「アレックス・チェン」という21歳のアジア系アメリカ人の女性で、孤児だった彼女をヘイブン・スプリングスに住む兄「ゲイブ」が探し出し、兄妹が再開するシーンから物語は始まります。
Black Lanternというバーの二階にある兄の部屋を譲り受け、ヘイブン・スプリングスで新しい暮らしを始めるアレックスだったが、ある事件をきっかけに状況は一変する。アレックスと街の住人たちとの交流を描きながら事件の真相に迫っていくというサスペンス要素の強いストーリーが展開されていきます。

 

超能力

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ライフイズストレンジといえば超能力。一作目では時間を巻き戻す能力を持つ主人公、二作目ではパワー系の能力を持ってしまった弟の面倒を見る兄として、その能力をいかにコントロールするかの選択が物語を動かし、主人公のキャラクターとプレイヤーの感情の揺れを同期させることに成功していました。
本作の主人公アレックスには他人の心を読める能力があり、他人の感情のオーラが見えたり、相手の考えている言葉を聞いたりする事が出来るというような説明が序盤でされるのですが、これがどうにも複雑かつ曖昧。
相手の負の感情が大きいと、その影響でアレックスが暴走し、その相手をボコボコに殴り続けるという描写が序盤にあるのですが、その物理的な強さが能力によるものなのか何なのかもわかり難い。

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「この能力による暴走のせいで今まで辛かったのだろうな」と思いきや、それ以降は暴走することなく、多少苦しそうにしている描写がある程度。何ならそのアレックスが暴力を振るった被害者をその後詰めて恋人と別れさせたり冤罪で町から追い出したりすることも出来てしまう。しかし、固有の名前や人格を持ち、ストーリーとも不可分な設定のキャラクターを主人公とした時に、セリフや行動を決める選択肢は「そのキャラクターがしそうなこと・言いそうなこと」になっていなければおかしいんですよ。プレイヤーは物語の文脈に従いながら自分の考えをどこまで反映させるかを悩み、そこで下した決定が物語を動かし、それによって作品内の世界に干渉する喜びを得られるわけです。例えば「人を殺す」という選択肢自体はあってもいいけど、プレイヤーがそれを選んでも主人公が思いとどまることで主人公の性格が説明できたりするわけで、本当に殺してしまったらそれはもうそういう頭のおかしいキャラクターなのか、或いはプレイヤーそのものでしかない。

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しかもこのアレックスの能力が、物語中盤から展開に都合よく合わせるかのように変化していくので全くついていけない。相手の気持ちを変えたり、負の感情を除去出来たりしてしまう。そしてその行為に対してアレックスがどこまで自覚的か、葛藤しているかもよくわからない。これは、本当にダメだと思います。

これまでのシリーズと同様に、アレックスもノートに日記を付けているのでそれを読むと彼女の心の内が垣間見えたりもするのですが、それがゲーム内の表現や選択肢に上手く結びついている感じがしません。ノートはあくまでも捕捉であり、読まないと本筋を見失ってしまうような構成は本末転倒。

 

シークエンス

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事件を解決するにあたり最終的に町の人たちの信頼を得て勝利を勝ち取るみたいなストーリーなんですけど、町の人たちからどうしてそんな信頼を得られたのかがよくわからない。気が付いたら仲良くなっていて、メールやSNSを見ると一週間とか二週間経過しているなんてこともザラ。能力を使って町の人の悩みを解決するということもあるにはあったのですが、その助けた内の一人が最後の大事なシーンで「あんたが来てから悪いことばっか。もう私に関わらないで」みたいなことをアレックスに言い放つ。で、そのことを後でメールで謝罪。スマホを常に細かくチェックしていないと何もわからなくなるストーリーになっています。
開発者が絶対に入れたいシーンと、ゲームに絶対に必要なシーンとの取捨選択が出来なくて、継ぎ接ぎだらけの隙間にメールとSNSを詰め込んでいる感が凄い。
あと、落ちたら絶対助からないような高所からアレックスが落下するシーンがあるのですが、失った意識の中で過去の辛い思い出がたくさん蘇ってきて、そうした過去の自分と向き合い、乗り越えることで助かるという無茶な展開には絶句しました。メガネも割れてなくて、片腕ちょっと痛めただけ。もしかするとそれくらいで助かることもあるのかもしれませんが、それだと夢の内容が大袈裟すぎるでしょ。繋ぎ方下手かよ。

 

TRPGと音楽

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本作の重要な要素としてTRPGと音楽があります。
まずTRPG要素ですが、町全体を使ってテーブルトークRPG(TRPG)みたいなことをする「ラープ(LARP)」というイベントが催されるのですが、これがとても良く出来ていて、町の人たち全員がRPGの登場人物に成りきってクエストを出してきたり、道端にアイテムが落ちていたりと手が込んでいてとても楽しい。
ただこういうものって、イベントを通じてアレックスと町の住人とのわだかまりが解けるとか、このTRPGのストーリーが本筋の物語とリンクしているとか、何かあると思うじゃないですか。それが何も無し。
ただただ『Life is Strange: True Colors』というゲームの舞台とキャラクターを使って別のゲームを作り込んでいるだけ。本編がしっかりと作られていて、おまけの遊びとしてなら素晴らしいものだと思うのですが、クリア後に思い返すと「結局あれは何だったのか」と疑問に感じずにはいられません。

 

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次に音楽ですが、アレックスの趣味がギターを弾くことで、序盤ではRadioheadの『Creep』という曲がカバーされています。BECK曰く「うぬぼれの強い曲」だそうですが、私は良い曲だと思います!
他にも、アイテムを調べた時に聞けるアレックスの独り言がボブ・ディランなど様々なアーティストの歌詞からの引用だったり、おそらくオリジナルであろうレコードのジャケットや曲の作り込みなど、ディテールへの異常なこだわりが随所に見られました。ただ、これらの楽曲のチョイスと、アレックスの性格やストーリーとの繋がりや必然性はあまりないように思いました。
ライフイズストレンジの一作目は写真学科の授業風景から始まるのですが、そこでマーク・ジェファソンという教師が「ダイアン・アーバス」という写真家を痛烈に批判しています。ダイアン・アーバスはフリークスを被写体として撮影し高い評価を受けた写真家なのですが、最期は精神を病んで自殺してしまう。アート色の強い学校の教師が何故この写真家の名前をわざわざ出して批判するところからゲームが始まるのかというのが、終盤になるとちゃんとわかるようになっている。わかる人にだけわかるタイプのネタなのでかなり自然な演出でサラッと流しているのですが、少しでも写真を知っている人には「ダイアン・アーバス」という名前は引っかかりを残すには十分なものなわけで、こういう細かい仕込みが初代のライフイズストレンジは凄く上手かったんです。
本作に出てくるRadioheadの『Creep』という曲は「完璧な肉体と魂が欲しい、だけど俺はかたわもの」みたいな歌詞で、これをアレックスに歌わせるのって相当ひどいっていうか、表現として稚拙な感じがします。

 

ステフの物語

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おまけとして遊べる『ステフの物語』ですが、これは海外では本編の後に配信されたダウンロードコンテンツ『Wavelengths(うつろい)』と同一のもの。本編でもヘイブン・スプリングスにあるレコード屋の店員として登場した女性「ステフ」を主人公として、彼女がアレックスと出会うまでの一年間が描かれるのですが、これが実に良く出来ている。
ステフの経歴ですが、ブラックウェル高校在学中はクロエと同級生で、卒業後はシアトルでパンク・オルタナ系のバンドで活動したのちにヘイブン・スプリングスに移住。
ゲームではレコード店で働くステフの一年間の様子を、彼女が一人で過ごす時間の断片で見せていきます。DJとして選曲やトークをしたり、スポンサーの要望を汲んでCMをつくったりと、この一人称のDJブースパートはシミュレーションとしてかなり充実したものになっています。ブースの外の店内ではレコードを並べ替えたりイベントの片付けをしながらステフがヘイブン・スプリングスという町でどういうふうに過ごし、馴染んでいったかがよくわかるようになっています。
ステフは所謂セクシュアル・マイノリティで、本編でもアレックスと恋愛感情を抱き合うという展開があったりするのですが、この設定も非常に練られたものになっていました。

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ステフが以前暮らしていたシアトルは2014年時点で「全米で最も LGBT が暮らしやすい都市」ランキングで1位になった町(※1)で、毎年「プライド」というLGBTQIA+によるパレードやイベントが行われており、ステフがヘイブン・スプリングスに引っ越してきた後にもそういった活動に参加していた様子が描かれます。
そんなシアトルも90年代には同性愛者に対する差別が蔓延していたのですが、その空気を変えることに大きく助力したのがシアトル出身のバンド「ニルヴァーナ」のカート・コバーンでした(※2)。ゲーム内にニルヴァーナという名前こそ出てきませんが、ステフのバンド名や思想からはカート・コバーンの影響を強く受けていることが窺えます。
現実に存在する国などを舞台とした時、こういった設定を作るのはそこまで難しいことではありませんが、サブストーリーでキャラクターの掘り下げをするというのは本来こうあって然るべきだし、ステフの物語が設定にしてもゲームとしても非常に良く出来ていることが余計に本編の粗を浮き彫りにしてしまっているように思えてなりません。

 

感想
キャラクターの表情の豊かさなど、基本的な表現力は上がっているのに物語がまるでついていっていないという印象。エピソードは全5話で構成されていますが、いちばん最初のエピソードで力尽きてしまった感もあり、全体的なボリューム不足に加え、話の脱線をスマホで補うのは悪手だったと言わざるを得ません。
前作『Life is Strange 2』における『The Awesome Adventures of Captain Spirit』のように、『ステフの物語』を前日譚としてみせてからの方がラープのような「完成度の高い蛇足」をストーリーの一部として機能しているかのように見せられた気がします。私の知識と理解が足りないせいなのか、各キャラクターの役割がよくわからず、プレイ中何度も眠気に襲われる程度には退屈なゲームでした。大好きなシリーズだっただけに、とても残念。

 

 

※1.「消費者向けファイナンシャル情報サイト NerdWallet による「全米で最も LGBT が暮らしやすい都市」ランキングで、シアトルが1位となった。
ランキングの基準となった要素は、同性パートナー世帯の割合の高さ(2012年度国勢調査ベース)、LGBT を差別から守る法規制の充実度(Human Rights Campaign の自治体平等指数ベース)、人口当たりの LGBT に対するヘイト・クライムの件数の低さなど。シアトルは同性パートナー世帯の割合が2.6%で、調査対象となった米国主要都市中で最も高かっただけでなく、平等指数が100、ヘイト・クライム件数が人口10万人当たり0.95件と、全般に良好だったことが1位という結果につながった。2位はサンフランシスコ、3位はアトランタで、ポートランドは11位となっている。」
Seattle is ‘LGBT-friendliest city in America’ in 2014

 

※2.「90年代初頭のシアトルでは同性愛嫌悪が蔓延していたが、ニルヴァーナは1992年に隣の州の街、ポートランドで開催された「No On 9 Benefit」でヘッドライナーを務めている。これは、LGBTQコミュニティを露骨に差別する投票法案に反対するためのショーだった。」
udiscovermusic Published on 4月 6, 2021

 

 

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