みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

ポケットモンスター スカーレット・バイオレット(Switch)

ポケットモンスター スカーレット・バイオレット
ゲームフリーク
2022年11月18日
Nintendo Switch

 

ポケモンオープンワールド化は何を繋げたか~


本作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』は、ポケモン本編としては9作目にあたる作品。
私個人としては1996年に発売された初代の『赤・緑』からはじめ、2006年の『ダイヤモンド・パール』が最後のプレイなので、実に16年ぶりの本編ということになる。とはいえ、今でも派生作品で遊ぶことはあるし、家の中もポケモングッズで溢れているので「ポケモンから離れた」という意識はまるでない。
そう、ポケモンはもうとっくにゲームだけのものではなくなっている。コンビニやスーパーで買い物をするときにポケモン関連商品を見ないことはないし、コロナ以前は街のいたるところで『Pokémon GO』を夢中で遊ぶ人たちを目にした。
そんな中、基本的なシステムを変えずに発売される本編が売れ続けていることは驚異的である。1980年代以降に生まれた世代の多くにとってポケモンは「はじめてふれたロールプレイングゲーム(RPG)」であり、その子供にあたる世代が親と同じ体験を共有しているRPGというのは他に例がないのではないか。それに加え、近年ではまだゲームを遊べない低年齢層向けのコンテンツをYouTubeで配信したり、先ほど挙げた『Pokémon GO』では高齢者のユーザー獲得にも成功している。ポケモンはもはや世代をこえ、現実世界に侵食している。それゆえ、ポケモンの軸となるゲーム本編は基本的なシステムに縛られ続ける。しかし、これを人気シリーズ作品特有のジレンマと取るのは大人のゲーマーだけなのではないか。ポケモンのターゲットは常に新規の子供たちであり、システムに飽きたのなら本編から離れて楽しめばいい。もう、それだけの幅の広さを持つタイトルになってしまったのだから。
なので、本作『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』がオープンワールドという新機軸を打ち出したことには期待以上に不安もあった。ポケモンオープンワールド化は私のように本編から離れてしまったファンを呼び戻すには十分魅力的ではあるが、上記したような、世代をこえて受け継がれてきた体験が失われてしまうのではないか、と。

 

しかし、そんな不安は杞憂に終わった。結論を言えば、本作はポケモン特有の体験を全く失わずに見事オープンワールド化を成し遂げた最高傑作である。リニアなストーリーテリングに縛られたJRPGオープンワールドとの相性が抜群に悪いが、本作はポケモンのシステムを最大限に有効活用して最適化させた成功例といえるだろう。

 

ポケモン本編のストーリーは、作品ごとに程度の差はあるが、ゲーム体験を過度に損なわない配慮がなされている。各地にあるポケモンジムのリーダーを打ち負かし、最終的にポケモンリーグで優勝するというのが全作に共通した目的だ。これは、主にUBI製のゲームに見られる「拠点制圧型」のオープンワールドと非常に相性が良い。本作ではポケモンジムの他に「スター団」と呼ばれる不良グループのアジトが各地に点在していることからも「拠点制圧型」を意識していることがわかる。

 

チュートリアルを終えるとプレイヤーは広大なマップに放り込まれることになるが、この「拠点制圧型」の一見自由ともとれるプレイ感にももちろんデメリットは存在する。8つある拠点をプレイヤーが自由に行き来できるとして、いきなり高いレベルの拠点に攻め込んでも当然勝てない。シューターなどのアクションゲームであればプレイヤーの技術でカバーすることも出来るが、ポケモンには戦略だけでは勝てない壁が存在する。プレイヤーの進行に合わせて敵の強さが調整されるタイプのゲームもあるが、その場合は逆にプレイヤー側のレベルや入手可能武器に制限をかけなければバランスが取れず、このシステムをポケモンに採用すると手持ちポケモンのレベルが横並びになるという事態が頻発するだろう。本作では移動の自由度を「拠点制圧型」としながらも、想定される正規ルートを四季と高低差で表現している。

 

つまり、最も強いジムは高所の雪山に置かれる。フロム・ソフトウェアから今年発売された国産オープンワールドゲーム『ELDEN RING』でもこの手法が取られているが、雪山へいたる道を開くにはいくつかの試練を乗り越えなければならない。その点本作では新種のポケモンを追いかけている内に、いつの間にか強敵だらけの雪山に迷い込んでしまうという不測の事態が起こり得る。虫捕りに夢中になるあまり知らない町に迷い込んでしまったかのような体験を抑制的な自由度よりも優先したことは、ポケモン当初のコンセプトが「昆虫採集」であることを考えれば当然の選択だと言えるだろう。

 

ゲームの軸となるジム制圧をプレイヤーの物語として機能させるための導線も実に丁寧に引かれている。
主人公はパルデア地方の中心に位置するテーブルシティの学園に通う学生だが、授業自体は任意であり、ストーリーとしての学園生活はほとんど描かれない。ストーリーは基本となる「チャンピオンロード」のほか、スター団と戦う「スターダスト☆ストリート」、各地を巡って珍しいスパイスを探す「レジェンドルート」の3つからなる。
チャンピオンロード」と「スターダスト☆ストリート」は学園関係者が登場し、授業を受けることで発生するサブクエストでは教師陣のエピソードが深堀りされる。『ペルソナ5』の「コープ」ほどシステム的に洗練されてはいないが、多くのJRPGが抱える「サブクエつまらない問題」を回避しており、「おつかい感」はあまり感じられなかった。しかし、学園内での学生同士の交流がなく、せっかく用意された自室の使い道が乏しいのは寂しく感じた。道中で戦うことになるポケモントレーナーの中には幅広い年齢層の学生がいたので、彼らとの交流が少しでもあれば授業へのモチベーションが上がったように思う。とはいえ、ポケモンバトルを基調としてキャラクターの魅力を引き出し物語を展開していくという、ゲームシステムに沿ったシナリオは秀逸。学園を中心としながら2種類の拠点をそこに紐付けすることで、自由度の高いプレイヤーの冒険に連続性が与えられる。

 

「レジェンドルート」では、新しいスパイスを見つけるたびに、序盤で仲間となる伝説のポケモンの能力が開花していく。伝説ポケモンに関しては、ストーリーの合間にわずかな謎がほのめかされるだけで終盤まで物語は動き出さない。この伝説ポケモン、戦闘にこそ参加できないが、序盤から唯一の乗り物としてプレイヤーの冒険にかかせない相棒として大いに活躍する。それがスパイスを食べるごとに高くジャンプしたり泳いだり滑空したり、最終的には崖まで登れるようになるまで成長する。この伝説ポケモンの成長と、そこで得られる能力がチャンピオンロードを駆け上がっていく主人公の成長とシンクロし、自分が強くなっていくという実感と共に探索できる範囲が広がっていく。その導線と、描かれるグラデーションは実に見事だ。

 

3つのストーリーを終えると、物語はいよいよ伝説ポケモンに関連すると思われる禁断の地「エリアゼロ」へと足を踏み入れることとなる。エリアゼロはパルデア地方のマップ中心に位置する底の見えない大穴。ネタバレは控えるが、長旅を共にすることで愛着の沸いた伝説ポケモンの謎が解き明かされるストーリーは秀逸で、これまで出会ったライバルとの共闘もあり胸が熱くなる。ここまでの旅のすべてが安易な伏線などに頼らずとも収束していく様は圧巻であり、気持ちが良い。
チャンピオンとして上り詰めていくルートと謎を解き明かしていくルート、それが主人公の成長とマップデザインに反映され、ポケモンの本質的な面白さを損なわないままオープンワールド上に古典的なRPGのナラティブを実現している。
ポケモンをゲットし、育て、戦わせるという基本的な3つの要素は、個々のプレイヤーの主体性により独自の物語を形成し、それらを広く受け止めるためのオープンワールド化にはシナリオの質と絶妙なゲームバランスが要求されるが、本作は見事にその条件をクリアしている。

 

オープンワールドにしろRPGにしろ、近年の作品ではそのゲームの世界観を構成する環境に重きが置かれているものが多い。それゆえ、環境の充実度がゲームのリアリティを高めるとして評価される傾向にある。その世界における法は存在するか、食料や電力の供給源は何か、など。例えば、『モンスターハンター:ワールド』(2018年)は虫や植物、魚などの環境生物を充実させ、モンスター同士が縄張り争いをする描写によって「生きた箱庭」を目指した。ストーリーやゲームプレイに直接関係しないディテールの充実は、その作品世界に説得力を持たせるのに実に有効だ。しかし本作ではそれらが見事に排除されている。ポケモン以外の生物は存在せず、町の人々も基本的にポケモンの話しかしない。
この「生活感のなさ」は現実のポケモンセンター周辺の景色と重なる。現実のポケモンセンターの多くは渋谷をはじめ、スカイツリーランドマークタワー、トウキョーベイなど、大都市や海の見える大型商業施設の中にある。ポケモンカフェや関連イベントも同様に、そういった土地が選ばれる。本作における町もまた、アパレルショップと飲食店を中心とした「休日のショッピング」を思わせる施設で占められる。ゲーム内のポケモンセンターがガソリンスタンドやサービスエリアのようなデザインになっているのも象徴的だ(ちなみに、ゲーム内の多くの建物や小物のデザインはスペインの名所名産がモデルとなっている)。

 

ハッコウシティ(左)とポケモンセンターヨコハマがある横浜みなとみらい(右) Copyright(c) 2002-2022 横浜風景写真素材集『はまの景』 All Rights Reserved

 

チャンプルタウン(左)とポケモンセンタートウキョーベイがある三井ショッピングパーク(右) Copyright © 2022 IID, Inc.


しかし現実では、そういった夢のようなポケモン空間や商業施設から一歩外へ出ると、ポケモンとは無関係の世界が広がっている。そんな景色を一変させてしまったのが2016年にサービスを開始した『Pokémon GO』であり、AR技術によりポケモンはついに現実世界のあらゆる空間への進出を果たした。
本作の世界は、現実のポケモンセンター周辺の景色を町として切り取り、その外に広がる『Pokémon GO』の拡張現実をポケモンの生息適地へと反転させたデザインとなっている。
本作の環境的なリアリティは、現実世界に散りばめられたポケモン関連の施設やグッズ、そして『Pokémon GO』によって積み上げられたイメージをオープンワールドの文脈で再構築したものになっており、休日に『Pokémon GO』でポケモンをつかまえながら車でポケモンセンターに向かう体験がゲームの中で再現される。本作におけるゲームとしての新しい試みは現実世界の商業展開とリンクし、その体験は初代『ポケットモンスター 赤・緑』の本質を保ったまま拡張される。
本作におけるオープンワールド化はゲーム内の地域を繋げるだけでなく、現実とゲームの世界を接続する機能をも果たす。本作のテレビCMでは永山瑛太演じる“ポケモンの世界から来た男”が現実世界に干渉する様子が描かれるが、そのコンセプトは『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の本質をついたものになっている。

 

 

最後に、バグなどについて。
発売当初から批判されている「処理落ち」や「バグ」の多さについてだが、発売から約2週間後(12月2日)のアップデート(1.1.0)まで、2時間に1度の頻度でプレイ中にゲーム自体がエラー落ちてしまうという事態に遭遇した。オートセーブ機能をオンにしていたので被害は最小に抑えられたが、収集の途中で落とされる不安はかなりのストレスを感じた。現在60時間程プレイしていてバグには遭遇していないが、多くのキャラクターが密集する町での処理落ちは多少気になる。オープンワールドゲームではよくあることだし、進行不能バグがないだけ優秀だとは思うが、低年齢層を想定した商品として「エラー落ち」は大いに批判されるべきだろう。

 


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