真・女神転生V
アトラス
2021年11月11日
Nintendo Switch
本作は真・女神転生シリーズ(通称メガテン)としては2016年2月10日に発売された『真・女神転生IV FINAL』以来の新作。プロデューサーは前作から引き続き山井一千氏が務める。
以下、全ルートクリア後の感想です。
※ネタバレなし
ストーリー
品川駅の雑踏を映すオープニング。
品川駅といえばバブル崩壊後急速に発展し、新幹線含む6つの路線に加え羽田空港に近いという利便性の高さから多種多様な人々が行き交う、現在の東京を象徴する駅のひとつ。
本作のストーリーの中で主人公(プレイヤー)は崩壊後の世界を再構築する選択に迫られ、多種多様な神々の声を聞くことになります。
法の神によって知恵を奪われた古い神々は悪魔となり、神の軍団である天使たちとぶつかることで楽園は魔界と化していた。
一方で、古い神々から奪った知恵で出来た「知恵の実」を食べてしまった「ヒト」は神に近い存在である「人間」となり、それに怒った法の神によって楽園から追放されてしまう。
人間の世界で暮らしていた主人公は思いがけず魔界に迷い込んでしまうが、「神造人間アオガミ」の身体を器とすることで古の神の姿「ナホビノ」となる。
この設定を土台としながら、最終的に法の神との対立か、多神教世界の創造、或いは神の玉座を破壊して人間だけの世界を創造するかなど、エンディングは4つのルートに分岐。
世界観は神話や宗教をモチーフとしながらも、対立する神々それぞれの立場から発せられる主張は明確で、現代に生きる私たちが感じている分断や不安に置き換えることが可能。
弱者によって両親を殺害され偏った正義を暴走させる警察官の八雲ショウヘイや、「多様性」という言葉を強調する総理大臣の越水ハヤオ、そして法の神が世界を治めなければ秩序が崩壊すると妄信している大天使アブディエルもまた完全な知恵を持つ存在ではないことが明かされるなど、現代的な価値観を主題としているのは明らかで、全体的に演出も素晴らしく共感できる部分が多い。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、世界を作り変える結末とトゥルーエンドで主人公の置かれた場所が、今年上映された映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』と偶然にも似ているのは非常に興味深いです。
しかしシンエヴァとは違い、『真・女神転生V』のラストシーンでは異なる2つの視点が提示され、ストーリー冒頭で語られた秩序と混沌が繰り返されるという不穏な予感を残しているのがメガテンらしくて良い。
ゲーム内容
悪魔合体は特に今さら解説する必要もなく、いつも通り面白いのですが、悪魔全書に登録されている素材で生み出せる仲魔は逆引き合体でお金さえ払えば手に入るなど、快適に遊べる変更が加えられています。
悪魔をスカウトする際に同種の仲魔がパーティーにいると悪魔同士の会話が始るのですが、会話の内容は豊富でとても面白いものばかり。水木しげる先生の漫画に出てくる妖怪のようなユーモアがあり、人間よりも魅力的。
バトルに関しては相変わらずの高難易度で、ノーマルモードでも余裕で全滅するし、オートセーブもないのでレベル上げですら緊張感があります。
2種類の低難易度モードを無料でダウンロードできるので戦闘が苦手な人にも優しい。
私自身、歯ごたえのある戦闘がこのシリーズの良さであることは理解できるものの、「歯ごたえのあるレベル上げ」がダルすぎて途中で投げてしまった作品がいくつかあるので、この仕様は本当に有難い。
この他にも、経験値やお金を多く落とす敵がたくさん出現するDLCが低価格で販売されているので自分好みの難易度で確実にクリアまで辿り着けます。
荒廃した東京が舞台のマップは高低差が激しく、行きたい場所へなかなか辿り着けない不便さは感じるものの、収集要素が多いので結果的に探索がキャラクターの強化につながります。
一つ一つのマップは広いものの、代わり映えのしない景色が続きがちで、オープンワールド的な環境表現も隠れた絶景もないので、良くも悪くも一般的なJRPGの範疇に納まっています。
中盤で行くことになる魔王城では壁に扇風機がたくさん設置されていて近付くと飛ばされて床に落とされるのですが、床には特に針の山や溶岩みたいな即死トラップがあるわけでもなく、ただ単に序盤の通路に戻るだけ。
これってたぶん、魔王城が暑いから扇風機買ってきて適当に配置してしまったんでしょうね。悪魔は知恵が足りないから。
...というのは冗談ですが、最近のドラクエやFFでもこういう仕掛けは多いし難しい問題だとは思うのですが、いちプレイヤーとしては、敵の悪意には立ち向かっていけるけど、開発者の悪意に足止めを食らうのは正直萎えます。
もう少し世界観を補足するようなものにできなかったのでしょうか。
荒廃した東京の風景はとても個性的で美しいのですが、全体的なマップデザインはかなり普通のJRPGといった感じで目新しさはありません。
感想
私個人の体験として、真・女神転生シリーズは3DSで出た『真・女神転生IV』と『真・女神転生IV FINAL』をスルーしてしまったので比較が出来ず、プレイ自体も数年ぶりになってしまったのですが、本作は非常に丁寧に作り込まれ、かつ間口も広く、シリーズ初心者のような新鮮な気持ちで最後まで楽しめました。
強敵にボコボコにされて泣いて帰って悪魔合体を繰り返し、パーティー編成を考えている時間が何よりも楽しい。
時代の変化によりアングラ感がなくなってしまったのは寂しいものの、現代的なテーマにメガテン的な視点で切り込んでいく姿勢は素晴らしいし、見せ方も上手く飽きさせない。
他のJRPGと差別化が図れていない部分がいくつかあり退屈に感じる時間もありましたが、それ以上にこのシリーズでしか味わえない特別な体験はしっかりと残っていて良かったです。