真 流行り神3
日本一ソフトウェア
2021年7月29日
Nintendo Switch,PlayStation4
『真流行り神』シリーズの3作目。旧『流行り神』から数えて6作目にあたる今作は、前作同様「科学/オカルト」でルートが分岐するテキストベースのホラーアドベンチャーゲーム。
全エンディング回収後の感想です。
※登場人物のネタバレあり
登場人物
主人公の北條紗希が所属する通称「とくそう」のメンバー。
左から愛染刹那・纐纈将臣・新見心太朗・如月密子。
その他にも旧作や旧シリーズからのキャラクターも多数登場します。
前作ではおふざけが過ぎて著しくホラーテイストを損ねていた相棒の愛染刹那も、今作では豆知識の披露と怪談の語り部に徹しているのが有難い反面、じゃあ前作のあれは何だったのかという疑問が頭をよぎります。
その他のメンバーに関しても、ストーリーの中で多少の掘り下げはあるものの、与えられた役割を淡々とこなしている印象が強いことから、今後に繋がる大きな物語へと大きく舵を執っていることが窺えます。
それを象徴するのが、旧シリーズで重要な役割を担っていた霧崎水明と間宮ゆうかの起用でしょう。彼らによって1作目に出てくる「ブラインドマン編」等の怪異と、金髪の王子が所属する組織「F.O.A.F.」との関連が示唆されて次回へ続くという流れ。
ストーリー
ストーリーは5つのシナリオと、前作に続き「愛染刹那編」、そしてそれらを補完する「隙間録」から成ります。
・古典的な都市伝説を思わせる「隙間女」
・某スプラッター映画風「悪魔の人形」
・グロテスクな表現と社会的なテーマを持つ「人間シチュー」
・旧シリーズを彷彿とさせる民俗学的な視点で描かれる「両面宿儺」
・そして、これらの怪異と「F.O.A.F.」との関連を窺わせながら次回作へと繋ぐ最終話「死者からのメッセージ」
4話目の「両面宿儺」は霧崎水明登場回ということもあり、民俗学的な視点で語られる都市伝説。両面宿儺は大人気の漫画『呪術廻戦』でも重要な役割を担っており、昨年のアニメ人気と共に考察が盛り上がったタイムリーなネタ。
それぞれのクオリティの話は別として、これだけのバリエーションを揃えてくれたのはファンとしては嬉しく、前2作品にみられたようなハズレネタが一切ない事から、開発側のユーザーに対する真摯な姿勢が窺えます。
個人的にとても残念に感じた『真流行り神2』も、今後の展開によっては全体からすると重要なピースとして機能する可能性を若干ですが帯びてきたので、次回作に対する期待が持てました。
感想
旧シリーズの特徴である「科学/オカルト」ルートの分岐は、ともすれば片方の整合性を優先することでもう片方が成り立たなくなるという危ういバランスで成り立っており、どちらにも相応の説得力を持たせたうえで軸となるストーリーによって全体を回収するという志の高い作品性に拘り、旧シリーズ最終作である『流行り神3』は図らずもそれがやはり無謀であったことを証明してしまいました。
しかし、オカルトをその背景である文化・社会的な側面から掘り下げ、科学的なアプローチを試行する作品は、昨今のホラーゲームでは希少な存在。知的好奇心を刺激するエンターテイメントとしての需要もあり、テキストベースのアドベンチャーゲームとの親和性は抜群に高い。
科学的にもオカルト的にも偏っていない一般的な人々の間で噂話として伝染していく過程と、そこに付く尾ひれ。
都市伝説を掘り下げることは結果的に現代日本で暮らす我々の不安や畏れを映す鏡となり、だからこそ興味が尽きません。
流行り神シリーズの掲げるコンセプトは、私のようなホラーファンにとっては貴重で有難いものではありますが、いかんせんシナリオの質が右肩下がりなのが気がかりです。
今作で多少持ち直したとはいえ、相変わらず主人公含めたキャラクターの持ち味や関係性が十分に生かされておらず、ベタなお笑いのノリでお茶を濁しているような印象を受けました。ホラーにとって最も重要な「恐怖」がキャラクターに与える影響が見え辛く、登場人物たちが物語から浮いてしまっているように感じられます。
それと、「科学/オカルト」ルートを捨てて新しいチャレンジを試みた1作目でファンの不評を買い、旧作の仕様に戻したものの作品の持つテンションが下がり続けているのも不安です。ファンのご機嫌を窺いながら伏線回収して小さくまとまってしまいそうな気がしてなりません。
名作たり得る素晴らしいコンセプトを堅持してはいるものの、その可能性を削りながら存続しているという印象は本作でも拭えませんでした。
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