みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

ドラクエ10に見られるオンラインゲーム性善説の破綻~輝晶獣問題

ドラクエ10はMMOというゲームの性質上、これまで幾度となくシステムの隙をついたアイテムやゴールドの増殖がプレイヤーによって編み出されてきたものの、それ自体は運営側から直接的な勧告がなされるまでグレーゾーンの中でのプレイヤーの暴走として、運営に対しての批判は最小限に留まっていました。
バージョン1期のはぐメタ無限DUPUという裏技に対しての迅速な対応から、バージョン2期には定期的にフィールドに出現する青宝箱から「ちいさなメダル」を人海戦術によって大量に入手するメダルローラーニコニコ生放送の生主によって編み出され、それ自体は仕様上規制出来ない為、青宝箱の制限とメダルの価値を下げるというシステム上の変更によって対処してきました。
こういった運営とプレイヤーの関係性がある種MMOの醍醐味かのように受け入れられ、たいした炎上もせず鎮静化していったわけですが、同じくバージョン2期におけるカジノでの逆天井により早くも破綻の危機に直面することになります。

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複数人のプレイヤーが協力することによってカジノレイドを意図的に発生させる裏技は、それまでアタリを極端に絞って過疎化していたカジノを活性化させ、運営側から違法行為ではなく仕様だという言質が取られたことからも一部のプレイヤーに自信を与えてしまいました。
しかし後にカジノの逆天井を修正し、それを利用したプレイヤーにペナルティを与えなかったことで逆天井に参加しなかったプレイヤーからは不信感を買い、参加したプレイヤーには「やったもん勝ち」という意識を強く植え付けてしまうことになります。
この「やったもん勝ち」意識が如実に表れた事件がバージョン3期におけるクロペンみのがし事件で、これは鞭装備「クロスペンデュラム」の「魔物をみのがす」という基礎効果がエンドコンテンツのボスにも効いてしまうバグを利用したもので、噂が広まってから直ぐに運営による禁止令がアナウンスされたにもかかわらず利用するプレイヤーが後を絶ちませんでした。
結果的に約1700アカウントに処罰が与えられ、後に彼らは「1700民」という蔑称で呼ばれることになるのですが、当時20万人以上存在したプレイヤーの中で「やったもん勝ち」意識の強い非常識プレイヤーが1700人程度しか存在しなかったという事実は、普通にゲームを楽しむほとんどの一般プレイヤーにとっては無関係であり、運営による浄化作用が正しく働いたという印象を与えました。

 

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※データ解析によるチート行為で高校生含む5人が書類送検されたスレイプニール事件について説明・謝罪する齊藤陽介氏(左)と青山公士氏(右) ~ニコニコ生放送 2015/12/08

サービス開始から2018年8月までプロデューサーを務めた齊藤陽介氏在籍時のドラクエ10は紆余曲折ありながらもゲーム内の問題と真摯に向き合っているという印象が強く、MMO運営とプレイヤーとの良好な関係性は一応保たれていました。
2018年に齊藤陽介氏の後任である青山公士氏がプロデューサーになってからは、その関係性に揺らぎが見え始めます。
特にバージョン3期あたりから顕著に見られるようになった新規プレイヤー獲得のための様々なシステムが青山P就任直後に加速したジェム課金と、appleに指摘された確率表記の詐欺により若い新規プレイヤーへの参入を閉ざしてしまうという失態。
その影響か、バージョン5.1からはアイテムドロップやレベルアップなどの、これまでドラクエ10が避けてきた「プレイヤーの強さに影響する課金要素」を導入。
これにより運営とプレイヤーとの信頼関係は徐々に崩壊。バージョン4中期頃から3代目ディレクター・安西崇氏への風当たりが強くなっていましたが、現在ではゲームそのものへの拭いきれない不信感へと膨らんでしまっているように感じます。
現在のドラクエ10は、もはやゲームというよりドラクエブランドだけで人を集めた質の低いオンラインサロンのような、客の足元につけこんだサービスに堕してしまいました。
そこで今回起きた輝晶獣問題は、これまでの多くの問題とは決定的に性質の異なるものになっています。


輝晶獣とは?

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・輝晶獣はフィールド上に稀に現れる。
 戦闘に勝つと消滅、負けると別の場所に現れる。

・魔因細胞というアイテムを30個集めることでもバトル権を得られる。
 一日2時間おまじないをかけてもらうことによりフィールド上の指定のモンスター
 から「魔因細胞のかけら」(稀に現物も出る)を手に入れることが出来る。
 おまじない効果は一日2時間のみ。
 魔因細胞のかけらを20個集めると魔因細胞一つと交換できる。
 魔因細胞はバザーで売買可能。

・輝晶獣を倒すと「輝晶核の破片」というアイテムをドロップ(稀に現物も出る)。
 破片99個で「輝晶核」一個と交換できる。

・輝晶核により武器を強化できる(+4の状態になる)。
 強化には5段階あり、輝晶核を3~7個消費する。
 段階が上がるごとに成功率が下がり、失敗すれば捧げた輝晶核は失われる。


問題点

1.「魔因細胞のかけら」のドロップ率が渋すぎる(2時間で20個落とすことが稀)。
 それにより一日2時間という制限がネックに。

2.結局フィールドでの取り合いとなるが、負けると輝晶獣が残る仕様の為、戦闘中には周囲で負けるのを待つプレイヤーが群がり監視され、中には心無い言葉を浴びせる者も。

3.魔因細胞30個で輝晶獣に勝利しても現物がほぼ出ず、魔因細胞と輝晶核の値段が高騰。
 現在ゴールドにより武器を強化する場合、最初の段階だけで2000万近くかかる。

4.バトルに挑むための2つのルートがどちらも膨大な時間のロスを発生させてしまっている。

 

問題点の【3】に関しては本来MMOを活性化させるという意味では良い事のように見えますが、他の要素と全く噛み合っていません。
魔因細胞はライト勢の金策として、バトルは廃層のステータスアップとして、職人とキラマラ勢のような互助作用を促す構造になるはずが輝晶核の希少性による値段の高騰により、人海戦術に長け長時間プレイできる者が圧倒的有利になってしまいライト勢はほとんど恩恵を受けられないのが現状。

フィールドボスに関してはバージョン2~3期において、ダークネビュラスをはじめとする3体のボスが実装されましたが、いずれも報酬はなく力試し的な存在で、フィールドに集まるプレイヤー達は互いに譲り合い、応援し、協力的な環境を築いていました。
今回の輝晶獣に対する多くのプレイヤーの落胆は、過去の経験からの変化によるものと考えられます。
輝晶獣に対する批判に多く見られる「あったかいドラクエを返してください」という悲鳴は過去の幻想にしがみつく古参のノイズにも聴こえますが、そもそもこのドラクエ10自体が過去の幻想を切り売りする事で成り立っているわけで、初期勢や以前の運営がその幻想を守ってきたという歴史があります。


2012年サービス開始直後のドラクエ10ではフィールド上で戦闘しているプレイヤーを応援したりバトルに敗北し倒れている人を蘇生してあげる所謂「辻ザオ」等、プレイヤー同士が助け合う光景が至る所で見られました。

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これらの行為は特にゲーム側から推奨されたというより自然発生的な流行であり、実際当時の環境下においては非常に有難いもので、野良で助けられた人が自分が逆の立場になった時には見知らぬ人を助けてあげるというポジティヴな空気が成立し、当時のネトゲユーザーの間では珍しく好意的に捉えられていた光景でした。
これは損得や偽善とは無縁の、ドラゴンクエストというシリーズがこれまで築いてきた世界観とロールプレイによる没入感によるものでしょう。
小島秀夫監督が『デスストランディング』のコンセプトに掲げたポジティヴなオンラインの関係性を、ドラクエ10が初期段階にプレイヤーの力だけで成し遂げていたというのは今考えると凄いことです。
もちろんそこには開発初期構想のシステムの秀逸さもありますが、ドラクエで育ち、今作で初めてオンラインゲームに触れる人たちの優しさや気遣いが根底にあったとも思います。
レベル上げではMMOガチ勢が魔法使いPTを組んで経験値の高いフレイムというモンスターを独占するというような出来事もありましたが、直ぐに一般プレイヤー向けの狩場も設けられ鎮静化しました。
サービス開始当初は運営もプレイヤーも探り探りの状態で、最初のレベル開放クエストでメガザルロックというモンスターの狩場が混雑する所謂「メガザルロックフェス」もMMOの洗礼として盛り上がりを見せ、その後批判をきちんと受け止めてアップデートに反映するという、運営とプレイヤーで共にドラクエ10というゲームを作っているかのような良好な関係を築いていました。

 

ドラクエ10性善説

以前の記事で「オンラインゲームの土台には性善説がある」というようなことを書きました。

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これは思想的なものではなく、プレイヤー間のトラブルに運営側が容易に干渉できない事や、グレーな行為に対して迅速な対応が困難であることなどによるもので、ガチガチのルールを設けてしまうとゲームの自由度が極端に狭まることを危惧し、信号や交通標識は設置するけど明確な罰則を設けず、プレイヤー間の常識による自浄作用に期待するというものです。

 

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ドラクエ10の世界を取り締まるGM(ゲームマスター)。暴言に関しては特定のワードが含まれていない場合対処できないなど、抜け道は多い。

ドラクエ10がサービスを開始してからのゲームの歴史を追うと、SONYの『PS HOME』や任天堂Miiverse』等のプレイヤー間の交流の場が軒並み廃止され、多くのオンラインゲームにおいてもゲーム内のチャット機能が退化・廃止の傾向が見られるようになりました。
つまり「プレイヤー間のトラブルはSNS等の外部ツールで勝手にやってくれ」ということです。
この背景にはスマホの普及やゲーム実況の隆盛、オンラインゲームのジャンルや規模の細分化などが考えられますが、2020年現在の多くのゲームには「オンラインゲームの土台は性善説」というのはあまり当て嵌まらなくなってしまいました。
ただ、ゲーム開発者の多くはSNSを利用しており、SNSでの意見に対して適切に対応することで良い結果を出せることもあり、『PUBG』や『Rainbow Six Siege』等の近年の成功したオンラインゲームでは常にユーザーに意見を求め、それをゲームにフィードバックすることにより成長してきた好例といえるでしょう。
一方でユーザーの意見を課金要素のみで反映させた『Fallout 76』では課金者と非課金者との間で対立が起き、コミュニティが分裂し戦争状態になってしまいました。
これからのオンラインゲームが成功するには性善説に過剰な期待をせず、ユーザーの質を見極め、そこから発信される意見に真摯に対応する努力が必須になります。

 

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※時代に逆らうようにチャット機能を進化させてきたドラクエ10(写真は2017年実装のスマホツールによるもの)。ともすれば相互監視や密告に使われそうなものだが、2018年頃から晒しネタとしてtwitterやまとめブログで大量に拡散され、当初危惧された通りの結果に。

ドラクエ10の初代ディレクターを務めた藤沢仁氏の対応は現在の観点から見ても適切で先進性の高いものでしたが、バージョン3期からは新規獲得も視野に入れねばならず、2代目ディレクターの齋藤力氏はその重圧に耐えきれず「宝珠システム」や「アスフェルド学園」などの頓珍漢な企画を連発。
結果的にドラクエ10は世界観やターゲット層がよくわからない間口の狭いゲームに。
世界観やビジュアルだけなら個性として好意的に捉えられなくもありませんが、宝珠やその他諸々の必須事項に関しては改善の必要性に迫られ、バージョン4期が丸々バージョン3の事後処理に割かれてしまったのはドラクエ10にとってはかなりの痛手でした。
なので本来ならばバージョン5においてドラクエ10には原点回帰か新たな方向性を明確に示すかの2択により、宙ぶらりんになっているプレイヤー達を一本のレールに乗せるべき岐路に立っていたはず。
だから事前告知されていた時短アイテムの課金も、フィールドボス「輝晶獣」の「魔因細胞」という救済措置も好意的に受け入れられていたわけですが、いざ蓋を開けてみるとかつてないほどの延命水増しコンテンツで更なる混乱を招くという失態。
輝晶獣のようなフィールドボスは黎明期のMMOではよくあったコンテンツですが、今のドラクエ10に実装したらどうなるかという想像力の欠如に加え、ドロップ率を極端に絞るという最悪な仕様。
過去のドラクエ10で起きた問題の多くは古いシステムと新しいシステムの齟齬から生まれたグレーゾーンをプレイヤーが発見し運営が修正するという後手後手の対応で、その対応の速度が評価の対象でした。
ですが今回の輝晶獣では過去スクエニ製MMO『FFⅪ』からドラクエ10の8年間のデータの蓄積の上で、どういうことになるかがかなり的確に想定できる状態でのリリース。その結果、当然ながら多くの批判を買ってしまったことが問題です。
片一方でレベル上げやコインボスなどを課金アイテムで時短しながら、フィールドボスという膨大に時間を失う過去のMMOの遺産をそのまま持ってくるというのは迷走以外の何物でもありません。
現在輝晶獣の多くの狩場では、戦っているPTが負けると輝晶獣が別の場所にポップする為、戦っているPTの周りには彼らが負けるのを待つギャラリーが取り囲み、かつてあった応援の代わりにPTが負けるように煽るようなチャットが見られます。
性悪説性善説に取って代わられるようなことがあれば、この世界も長くないでしょう。
信号を守っていたのに車に轢かれてしまった人に対して「法律は犯していない」「人間とは本来こういうもの」「嫌なら危険な場所に来るな」というのは一見正論のように聞こえますが、明確なルールのないネットの世界では火事場泥棒の詭弁でしかありません。
1700民の「やったもん勝ち」が肯定され、運営側がそれを助長するようなディストピアが訪れたとして、今までマイペースにドラクエ10を遊んでいたプレイヤー達はどう感じるのか?
「あったかいドラクエ」などと言えば冷笑主義者の恰好の的にされそうですが、先ほども書いたように、サービス開始当初のドラクエ10は多くのオンラインゲーム開発者が喉から手が出るほど欲しがる「ゆるやかでポジティヴな空気」を自然に備えていたわけで、それらを構成していた「ドラクエファン」や「ドラクエらしさ」は何としてでも死守するべきでした。
2代目ディレクターの齋藤力氏は「ドラクエらしさ」を足かせと捉えていたような節がありましたが、彼なりに自分の理想を形にしていただけ現状よりは大分良かったように思います。
開発者の理想も夢もなく、何の指標も示されていないゲームを誰が支持するのでしょうか。
経年劣化にはどうしても逆らえないMMOですが、長年親しんできたファンを失望させるような終わり方を迎えるのだとしたら、それはあまりにも悲しすぎます。

 

 

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