みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

じんるいのみなさまへ(PS4)

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じんるいのみなさまへ

日本一ソフトウェアアクワイア

2019年6月27日

playstation4Nintendo Switch

 

『じんるいのみなさまへ』を追加DLC含め2周クリア、トロフィーコンプしてからの感想です。後半ネタバレあり。

ちなみに、発売1週間後くらいに定価で購入したのですがチャプター3からエラー落ちが頻発して2週間ほど寝かせました。¥7538がたったの1ヵ月ちょっとで¥2500程度まで落ちていたのは衝撃。エラーは何度か報告させてもらいましたが何の音沙汰も公式のお知らせもなく修正されていました。現在では安心して遊べます。

 

サバイバル?

はじめはこのゲーム、特に何も調べずサバイバルものだと思って買ったのですが、どうやらそれは見当違いだったようで序盤は困惑しかありませんでした。

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 『AKIBA'S TRIP』シリーズを手掛けてきたアクワイア開発という事で、舞台となる秋葉原のマップは結構良く出来ているし広さも十分。

しかし天候や時間による変化は皆無で、サービスの終了したオンラインゲームの世界を彷徨っているかのような無機質な寂しさがあります。

草木が揺れたり、小動物の陰でもあればもう少し雰囲気が出て探索にも張りが出たのではないかと。とにかく寂しくて、素材を探す場所も完全固定なので代わり映えのしない街をひたすらマラソンする時間はとても退屈に感じます。

サバイバルというジャンルは実にゲーム的で、荒廃した世界の中で自然の驚異に晒されながら生活基盤を自分なりにビルドしていく作業は楽しいものですが、今作にそれを期待するのは無駄。

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これは釣り場ですが、何故か道の真ん中で魚が釣れます。

他にも動物を捕獲するための罠を仕掛けたり畑で野菜を育てたりできるのですが、数か所ある釣り場や罠に比べて畑は1ヶ所しかなく、収穫も畑だけ3日間かかるというゲームとリアリティとのバランスの悪さが目立ちます(罠は1日で必ず捕獲できる)

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これは魚釣りの場面ですが、探索結果を表示する演出がまるでガラケー時代のゲームのようなチープさで溜息が出ました。

しかもゲームを進めていくだけなら食料を調達する必要性はほとんどなく、空腹の状態でのペナルティが「探索にかかる時間が延びる」だけなので、トロフィー取得に興味がなければやる意味がありません。

基本的にテキストシーンの繋ぎとして間延びしたマップを延々と走らされるプレイが続くので悪い印象だけが残ります。

 

ストーリー

このゲームの公式HPを見てみると「ジャンル:ガールズアドベンチャー」とあるのですが、プロデューサーの菅沼元氏によれば「日常百合ゲー」ということで、そもそもサバイバルを謳っていないという…(こちらの勘違い)

私の中で「百合」というジャンルがそもそもあまりピンとこなかったのですが、『けいおん!』などの「女子たちがほのぼのとした日常を送る」感じのものだという認識で概ね良いのかな...?

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秋葉原に旅行へ来た5人の少女たち(全員10代前半)

ホテルの部屋で目が覚めて外へ出てみるとそこには廃墟と化した秋葉原の街が!

プレイヤーの困惑を余所に女の子たちはあまり不思議がりもせず「とりあえず食料調達しなきゃね」なんて言いながらゆるふわサバイバル生活を送ることに~

この序盤の展開だけでかなり不安になります。

秋葉原が廃墟になっていることや無人である事にあまり疑問を持たないキャラクターたち。

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しかもホテルで来ている寝間着が全員いわゆる死に装束(にも見えるがおそらくただのホテルのガウン)。 

いろいろ考えはじめると怖いです。

日本一ソフトウェアで思い出すのがPSP『セカンドノベル ~彼女の夏、15分の記憶~』というゲームで、プレイヤーは一体何をしているのか、どんなジャンルの話なのかも全然分からない状態で複雑な分岐を延々と回収していくという不思議な作品があったのですが、序盤はそれに近い感触を憶えました。

実際今作品は分岐などはなくてひたすらテキストを読み進めるだけなのですが。

 

しかし序盤を過ぎると彼女たちそれぞれの役割がはっきりとしてきてお互いを認め合ってより一層仲が深まっていくというエピソードが続き、百合などの知識がなくても楽しめるようなほのぼの展開が続きます。

 

※ここからネタバレあり

 

 

中盤からはホテルの水やお湯が出なくなったりして、それらの設備を修理するためにいろいろいじっている内にホテルの内部に通信室のようなものを見つけます。

そこで衝撃の事実が発覚。

なんと地球人類は驚異的な有害ウイルスによって30%(25億人)が死んでしまい宇宙へ逃げることに(通称『アララト計画』)。

その計画の一環として感染してしまった患者をコールドスリープ状態にしてウイルスの寿命が来るまで治療として地球で眠らせておく計画も実行されていて、その当事者というのがこのゲームの登場人物である彼女たち。

ウイルスの寿命は500年。

つまり彼女たちは500年の眠りについていたというのです。

この通信によってもはや地球には有害なウイルスは無いと判断した宇宙移民たちが1週間後に彼女たちを保護しに来るという。

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でもさー、せっかくこんなにみんなで仲良く楽しくサバイバルして暮らしてたのに、この生活が終わっちゃうのは寂しいよねー。みんなで旅行でも行かね?

おわり

 

とまあ、これが大まかなこのゲームのストーリーです。もちろんその間に百合エピソードがてんこ盛りで声優さんの演技も素晴らしいです。

壮大なネタバラシの後も「この日常を続ける」という彼女たちの決断はブレてないし納得がいきます。

ただなんかやっぱり、ゲームとしてはあまり印象に残らないんですよね。

完全なる一本道で、広い3Dマップをあれだけ歩きまわされたのにゲーム内では微塵も行動が反映されないという虚しさが大きすぎて素直にストーリーに入り込めませんでした。

 

追加DLC

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追加DLCを購入すると「朱香 CyxaЯ(シュカ スハーヤ)」 という日本人とロシア人のハーフ、年齢12歳で航空宇宙工学に精通し、趣味が落語という新キャラクターが登場します。

頭が良いキャラなので上の写真で一番右の幽々子と被ってしまい、今まで幽々子が解説していたセリフ部分をシュカが奪うような形で中盤まではほぼ1周目と同じ展開が続きます。

しかし中盤以降、ホテルの通信室で宇宙人類である「ムツミ」という女性と交信する過程で世界線が変わっていきます。

シュカがパーティーに加わることによって主人公の京椛(左から3番目)が自分の過去に関係すると思われる夢を見始めます。そこにはシュカがいて、仲たがいをしたまま疎遠になっていくというようなもの。それをきっかけに他の子たちの中にも今まで疑問を感じなかった街や人間関係に対する疑惑が生じてきます。

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こういった意識の変革によって1周目とは違う展開、異なる結末に向かってストーリーが走り出すのですが、これがなかなか凄い。

1周目では具体的な数字は出ませんでしたが、かなりの人口が宇宙に移住していて、地球からの信号を受け取った後1週間ほどで迎えを寄越せる環境だったのが、こちらの世界線の宇宙人類は宇宙環境に馴染めずに大半が死亡。現在では月面に3万人程度しか残っておらず、今すぐ地球に京椛たちを迎えには来られない。

京椛たちのようにコールドスリープによって地球に残された人たちの数は6000人。アララト計画ではウイルス死滅までに500年地球に帰還することが出来ないので人類の在り方が変容してしまう恐れもあった。

そこでコールドスリープ状態の人類に強いインプリンティング(刷り込み)を行った。

それは「ともだち」という概念。

もしも地球人類だけが生き残ってしまった場合、思想や宗教などによる争いを避けるためには平和に共存していくための「ともだち」という概念が必要だった。

 

つまりこのゲーム、今まで「5~6人の異なるタイプの女の子たちがイチャイチャする百合ゲー」という、1周目をクリアした時点でプレイヤーにインプリンティングされた概念を覆しながら2周目のストーリーの結末に向かって収束していくという仕掛けがあったのです。

彼女たちはもともと仲良くもないし、絶交状態になるほど相性の悪い組み合わせもあった。それが「仲良しグループの旅行」という設定と長いサバイバル生活によってお互いの役割を理解し、尊重しあえるまでになった。

 

この設定で思い出すのが『ウォーキング・デッド シーズン2』(以下TWD2)という2013年のゲーム。

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TWD2の世界は原作同様、ゾンビだらけの終末世界(ポストアポカリプス)が舞台で、主人公はクレメンタインという11歳の女の子。

もちろん彼女一人では生きていけないので色んな大人たちに助けてもらってサバイバルして生きていきます。

でも大人たちはいつも喧嘩ばかりしているんですね。その理由が全部「アメリカ南部のしきたりを守れ!」とか「アカ野郎(共産主義社会主義者)!」とか、旧世界の思想や愛国心といった、終末世界では何の意味もなさないもので罵り合っていてクレメンタインは困惑する事しかできないのだけど、ラストには仲の良かった青年と、ずっと面倒を見ていてくれていたおじさんが殺しあってしまう。

で、一人になったクレメンタインが白人と黒人の間に生まれた(親はゾンビにやられて死亡)赤ちゃんを抱いて新天地を目指して歩いていくという力強くも哀しい終わり方をするわけです。

 

で、何が言いたいかというと、この『じんるいのみなさまへ』という作品はTWD2のようなポストアポカリプスのサバイバルものに対して「日本のオタク文化ならこういうストーリーにも出来ますよ」というアンサーになっているのではないかと。

TWD2ではゾンビを放ったらかしにして人間同士の思想や宗教による醜い争いが人間を不幸にしていきますが『じんるいのみなさまへ』ではそれに代わる概念を理想として描いています。

そう考えると1周目にしょぼいと感じた演出や、全く争わない女子たち、皆無といっていいグロ表現や、不自然なほど出てこない男性キャラなど全ての要素が必然的に思えてきます。

つまり…

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百合は世界を救う!!!

 

という壮大なテーマに果敢にチャレンジしながらも、見事に描き切っているのではないか!?

最初にも書きましたが、私自身百合という文化をあまり知りませんし興味もなかったです。それでもすんなり物語の世界に入り込めたのは、設定とシナリオの整合性が取れていることによって獲得された説得力によるものかと(2周プレイすること前提ではある)

「百合」というジャンルに特化しながら、仕掛けとしてもうまく機能させ、押しつけがましい演出を省きながら批評性も併せ持つ…こんな作品中々お目にかかれません。

 

トロコンとは無関係な要素として「コインロッカー」というものがあって、これも今作を語るうえで外すことが出来ません。

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街で見つけた100円玉を使って開けていくと中に手紙が入っています。

人類が宇宙へ旅立つときにコインロッカーに日記を入れるのがブームになったようで、中にはとても個人的なとりとめもない日記が入っています。

これがもう、本当に良くて。

別にこれを読んだところで何か真相が分かったりするような(核心的な)考察の足しになるものも特段ないのだけど、それが逆に良いんです。

日記の内容はサラリーマンが書いたコンビニスイーツのレビューだったり、学生の部活の話だったり、普通なら興味を引くはずのないものばかりなんですけど、それがたった6人しかいない秋葉原と宇宙人類と500年前の人類を結び付けてくれるように感じてついつい読み耽ってしまうような魅力のある文章ばかりなんです。

どの日記も程度の差はあれど友人などの隣人に対する想いが綴られていて泣けます。

 

 

ということで今作『じんるいのみなさまへ』は、「百合」という特異なジャンルに特化しながらも、それを見事にゲームのストーリーに昇華させることで説得力のある世界観を持たせることに成功している類稀なる傑作…と言いたいところですが追加DLCが有料(¥500)なんですよね…あと本体価格も高すぎると思います…

1周目クリアで「シュカ編」解放でよかったし、それ込みで定価¥5800くらいならもっと評価も高かったはず。1周目だけだと真相も解らないし、シナリオもアクションも薄っぺらいゲームという印象しか持てないのが辛いところ。

 

今作が発売されて2か月ほど経ちましたが、今作に関わったスタッフの多くが日本一ソフトウェアを退社して「株式会社デイジーワールド」という新会社を設立したようです。本社はなんと今作の舞台でもある秋葉原

今後のデイジーワールドの動向にも注目していきたいと思います!

 

 

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