みやび通信

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BLUE REFLECTION TIE/帝(Switch)

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BLUE REFLECTION TIE/帝
ガスト
2021年10月21日
PlayStation 4Nintendo Switch

 

『BLUE REFLECTION TIE/帝』は2017年に発売されたゲーム『BLUE REFLECTION 幻に舞う少女の剣』から始まりアニメ作品『BLUE REFLECTION RAY/澪』、そして今後配信が予定されているスマホ・PC用ゲーム『BLUE REFLECTION SUN/燦』から成るBLUE REFLECTIONプロジェクトの3作品目にあたるが、単体でも十分楽しめるものになっている。

以下、クリア後の感想。

※ネタバレなし

 

ストーリー

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ある夏の日、近所のコンビニで落としたスマホを拾おうとする主人公の星崎愛央はそこで意識を失ってしまう。モノローグでは愛央の「ずっと何者かになりたいと思っていた。特別な何かを持つ何者かに」という想いが語られ、気が付くと舞台は閑静な住宅街から一変、辺りが水で囲まれた校舎へ。

 

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学校では3人の少女たちが、この世界に何の疑問も持たずに暮らしていた。どうやらこの世界で現実の記憶を持っているのは愛央だけ。しかし愛央の存在によってこの世界に大きな変化がもたらされようとしていた。

 

ココロトープ

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何故か電気も水道も通っている学校で暮らす4人の少女だったが、ある日突然校門の前に別の世界へと続く道が現れる。道の先は「ココロトープ」(命名は愛央)という、人の記憶を反映させた世界だった。

 

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ココロトープを徘徊するモンスターに対し、少女たちも自分の特性を生かした能力で対抗。登場する少女たちそれぞれのココロトープが存在し、各々の想いを反映させた世界は不条理だが美しい。

ココロトープの設定自体は『ペルソナ4』や『幻影異聞録♯FE』と非常に近いが、戦闘は敵のターンが可視化されたリアルタイムコマンド方式で、戦略性の高さとわかりやすさのバランスは良い。とはいえ、比較的レベルが上がりやすく、待機しているメンバーにも均等に経験値が与えられるため後半は単調になりがち。

 

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しかし、マップや戦闘における少女たちのモーションが抜群に良く、各キャラクターの魅力が遺憾なく発揮されていて何度見ても飽きない。

ココロトープの道中では各少女の思い出が断片的に提示され、最深部にいるボスは少女にとって最も思い出したくないトラウマの具現化であり、仲間たちと共に撃破し、痛みを共有することで皆の絆が深まり、それによってこの世界の謎が少しずつ解けていく。

 

学校

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学校ではココロトープから持ち帰った素材を使い、マップ上の障害物を消すアイテムやステータスを強化する料理など様々なものがクラフト可能。各キャラクターのお願いを聞くことで作れるものが増え、学校内の空いた敷地に屋台やカフェのような施設も設置できる。施設は組み合わせやレベルアップさせることによりイベントの追加やステータスアップなどの様々な恩恵を受けることが出来る。

イベントとは主に愛央と各キャラクターとのデートイベントで、内容のほとんどは女子同士の他愛のない会話なのだが、そのテキスト量は膨大。

ココロトープでの重い話とは打って変わり、学校では仲間たちとの和気藹々とした幸せな時間が流れ、中盤からは百合要素も加わる。

 

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このゲーム全体に言える事だが、オブジェクトの配置や小物の作り込みがとても丁寧で感動する。莫大な制作費をかけて開発されたAAA作品と比べるとビジュアル的に見劣りするのは当然だが、AAA作品が見落としがちな細かい要素が詰め込まれ、そこには「彼女たちが存在する世界」のリアリティが確かにある。

 

物語を取り戻す物語

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多くの3D美少女ゲームにはプレイヤーを投影する主人公キャラが用意されている。その役割は恋愛対象となる同級生や音楽プロデューサー、家庭教師であったりと様々だが、ゲーム内の少女たちは主人公の行動によって成長し、感謝することを忘れない。

例外として「百合」というジャンルがあり、本作にもその要素は盛り込まれているが本筋ではない。

表層的に見ても本作は主人公である星崎愛央の「何者かになりたい」という現状の自己不安が、仲間たちとの交流という社会性の獲得により肯定される物語となっている。

しかし私が個人的に感動したのは、本作が構造的に旧世代の所謂「ギャルゲー」の枠を大きく踏み越えていることにある。

 

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広義での女性アイドルを発掘する講談社のプロジェクト「ミスiD」に応募する女性たちのSNSでは「何者かになりたい」という発言が多く見られる。

そしてBLUE REFLECTIONの設定に大きく関わっているイラストレーターの岸田メル氏は2016年にミスiDの審査員を務めた際、Twitterで「あなたが何者でも、何者でもなくても、誰かを元気にしたい、誰かのアイドルになりたいと思っていたら是非。」というコメントを寄せている。

本作『BLUE REFLECTION TIE/帝』は「皆の力を合わせて乗り越える大きな物語=ココロトープ」と「幸せな時間を共有するシェアハウス的要素=学校」という二つのパートで構成されているが、この構造自体が現在多くのアイドルが抱えている「消費のされ方」に疑問を投げかけ、解決のヒントを提示する。

 

ミスiDに限らず、本作とアイドル文化には多くの共通点が見て取れる。サウンドノベル形態のギャルゲーが選択と分岐を軸とし、膨大なテキストによって物語性を拡張してきたのに対し、3Dモデルによるギャルゲーは同時代の日本のアイドルをロールモデルとすることで共に進化してきた歴史がある。

テレビ東京ASAYAN』(1995~2002年)期における「モーニング娘。」は、『LOVEマシーン』(2000年)という初のミリオンセラー達成という成功(大きな物語)と、それにより激化するオーディションやメンバー合宿(シェアハウス要素)のドキュメンタリーという二本柱を軸として巨大化していった。舞台の裏側を追い続けるASAYANのカメラにはメンバー間の分裂や軋轢が映し出され、彼女たちの関係性が多くのドラマを生んだ。

ファンたちはCDやグッズを買い、現場に足を運ぶことで「モーニング娘。」というゲームに参加する。所詮は日本国内オリコン周辺の狭い世界である。ファンによるCDの複数買いや匿名掲示板での運営批判がモーニング娘。や彼女たちの所属するハロープロジェクトの運営に与える影響は大きく、インターネット時代におけるアイドル産業の在り方を良くも悪くも作り変えてしまった。

しかし、そうした「アイドルに負荷をかけて楽しむエンターテイメント」()は生身のアイドルを疲弊させ、かつてあった輝きを失わせる。そうしたアイドルを指して「劣化」という表現を用いる露悪的な文化は当然寿命も短く、多くの固定ファンをつかんだハロープロジェクトASAYAN終了と共に残酷ショーから手を引きファンビジネスに特化していくことになるが、その代償としてテレビという「大きな物語」を失ってしまう。

この、初期モーニング娘。のコンセプトを引き継ぎ進化させたものに『AKB48』(2005~)と『アイドルマスター』(2005~)が挙げられるが、AKB48の「AKB総選挙」やアイドルマスターにおけるプレイヤーの存在(プロデューサー)は「お客様の力によって成立している」という建前が構造に組み込まれているが故、旧態依然の枠組みを越えられず、そこにどのような物語が生まれたとしてもファンの中だけの共同幻想、多くはホモソーシャルな消費の中で劣化する。こうしたコンテンツの劣化を防ぐために行われる頻繁なメンバーチェンジで個々のアイドルは使い捨てられるが、活動中は常に「お客様のため」の接待に明け暮れ、その中で彼女たちの物語は消費されていく。

 

こうした「生身の人間」、或いは「キャラクター」を消費することでしか成立しえないアイドルビジネスに一石を投じた作品として2017年の韓国ドラマ『THE IDOLM@STER.KR』が挙げられる。ゲーム版アイドルマスターをベースとして展開されるこのドラマは、「アイドルとして成功するための厳しいレッスンや、メンバーそれぞれの辛い過去がフィードバックされるシリアスなドラマ」と、「初めはメンバー同士が対立しながらも徐々に打ち解け合い、緩やかな空気が流れる合宿施設」という二つのパートで構成される。本来視聴者(プレイヤー)に感情移入させるべきプロデューサーの存在はドラマの重要人物として独立した設定が与えられ、こちらが介入する余地を持たない。

辛い過去やレッスンを乗り越え、メンバー同士が一つになって迎えるデビューの舞台は閑散としたものだったが、そこには彼女たち一人一人の物語が未来に向けて大きく開かれているという可能性を感じさせ、最後の場面でアイドルの口から発せられる「私たちがあなたを応援するから」というセリフにより、現状の「客に消費されるだけのアイドル」という歪んだ関係性がリセットされる。

そしてこの『THE IDOLM@STER.KR』が提示した理想的なフィクションをリアルな世界で実現させたのが韓国のヒップホップグループ「BTS」(2013~)だ。米ビルボード1位による世界的成功という巨大な物語と影響力、そして2016年の『Bon Voyage』から現在の『BTS In the Soop』まで続くリアリティ番組ではBTSのメンバーのみで過ごす休日が延々と映し出され、そこには旧来のリアリティショーの演出を廃した、シンプルで幸せな時間だけが流れ続ける。

BTS In the Soop』にある幸福な空気感、或いは視聴者の幻想を支えている要素として、彼らが男性グループであることや、現時点で大きな物語を手にしてしまっていることは勿論大きいが、ブレイクするずっと以前から現在まで基本的な演出を全く変えていないことは注目すべき点だろう。人口の少ない韓国の音楽産業は世界市場を視野に入れなければならず、BTSを売り出したBig Hit Entertainment(2005年設立)が当時としては弱小事務所であったにもかかわらず頭一つ抜けられたのは、国内の古い価値観にとらわれずアーティストの主体性を尊重するという大胆な戦略を取れたことが大きい。それはブレイク後の彼らの活躍にも顕著だ。

BTSの存在が感動的なのは、彼らが彼らの物語を自ら切り開いていると同時に、それが商業的な戦略として成功している事だ。

 

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リアルとフィクション、規模の違いはあれど、キャラクター消費型のビジネスからキャラクター自身の物語を取り戻したという点で『BLUE REFLECTION TIE/帝』と『THE IDOLM@STER.KR』、そして「BTS」は共通する。

そしてそれは同時に「消費されること」でしか価値を持てないと感じている現実の「何者でもない」少年少女たちの存在を肯定することでもある。

大きな物語を背負うことでシェアハウスにおける素に近い人間関係はエンターテイメント性を帯び、これらを両輪として3D美少女キャラクターは自分自身の物語を駆け抜ける。そしてゲームをクリアした時、星崎愛央はそこで初めてプレイヤーの中でアイドル的な存在と成り得るのだ。

 

『BLUE REFLECTION TIE/帝』というゲームは、継ぎ接ぎだらけで引用だらけの、お世辞にも洗練されているとは言い難い作品だ。しかし、どこを取っても無駄がなく、全てが星崎愛央をはじめとする少女たちの物語を構成する要素として機能している奇跡的な作品でもある。微エロや百合や魔法少女RPGが闇鍋的に放り込まれているにもかかわらず、キャラクターや物語の持つ揺るぎない一貫性がそれらを軽々と一纏めにしている。

本作のテーマである「平凡な女子高生が平凡な自分自身を肯定するまでの物語」は、3D美少女ゲームという特殊なジャンル故、それまでの接待型のキャラクター像を打ち破り、その思想は世界で活躍するBTSと根本部分で合流する。

物語はわかりやすく、多様な欲求に答えるエンターテイメント性を内包しつつ、それでいて革新的な構造を持つ『BLUE REFLECTION TIE/帝』は間違いなく大傑作であるし、2021年という年にこのゲームが発売されたこと、そしてプレイ出来たことが何よりも嬉しい。

 

 

※ TBSラジオライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(2013年)内での「AKB峯岸みなみ丸刈り謝罪」に対するコンバットREC氏の発言。

 

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