パチパラ12~大海と夏の思い出~
アイレムソフトウェア
2005年12月15日
『パチプロ風雲録4 銀玉殺人事件』は2005年発売のPS2のゲーム『パチパラ12~大海と夏の思い出~』の中に収録されているストーリーモードです。
パチンコゲームにストーリーモードが付くのは割と珍しくはありませんが、ことアイレムのパチパラシリーズにおいては、もはや本編といえる程の作り込まれたストーリーが用意されています。特に今作から始まる3Dで構築された箱庭世界は『絶体絶命都市』シリーズなどを手掛ける九条一馬作品(現グランゼーラ)を語る上では外せません。
※記事内のスクショはゲーム画面を直接スマホで撮影したものです。ストーリー本筋のネタバレはありません。
ストーリー
主人公はたまたま立ち寄った八原町という町のパチンコ屋で殺人事件を目撃(銀玉会館殺人事件)。それをパチンコ屋の店員に目撃されて警察で事情聴取を受けることに。
犯行を認めない主人公は証拠不足という事もあり釈放されますが、容疑が晴れるまで八原町から出ることを禁じられます。
この先は町で様々な事件に首を突っ込みながら警察に協力し、事の発端となった銀玉会館殺人事件の解決に向けて進めていくことになります。
箱庭世界
今作は『絶体絶命都市』(2002年)と『絶体絶命都市2』(2006年)の間、『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット』と同じ年に同じゲームエンジンで開発されました。
自室のカスタマイズなど、それまでのパチプロ風雲録シリーズにあった要素を継承しながら3D空間の中にパチプロの日常を再現しています。
推理ものにも関わらず、町では床屋で髪や髭を整えることが出来たり、食事による体調管理や釣り。果ては合コンや異性とのデート、同棲まで実現。
これに非常に近いゲームとして、ほぼ同時期に発売された『The Urbz:Sims in the City』(2004年)が挙げられます。『The Urbz:Sims in the City』も街の人たちとの交流によりリスペクトを上げ、様々な仕事で稼いだお金でボロアパートからペントハウスに住むまで成り上がっていくストーリーで、SIMSシリーズから受け継いだ体調管理まで実装されているゲームです。他にも多くの類似点が見られますが『銀玉殺人事件』が特殊なのは、ゲーム内の金策が実機によるパチンコシミュレーターで出来ることと、推理ゲームとして丁寧に作り込まれていることが挙げられます。
町の人たちから集めた情報(ピース)を基に推理パートでパズルのように組み立てていく手法は『絶体絶命都市2』にも採用されています。
箱庭世界と推理アドベンチャーとの組み合わせを実現したゲームは世界的に見てもかなり希少ですが、『L.A.ノワール』(2011年)がシームレスなマップ移動や心理戦に重きを置いているのに対して、『パチプロ風雲録4 銀玉殺人事件』はシェンムー的な日常シミュレーション要素の中に事件を配置するという独自のアプローチをしています。
『L.A.ノワール』は発売当時「現場と現場の中間に何もない」という批判を多く受けましたが、『パチプロ風雲録4 銀玉殺人事件』では逆に「やれることが多すぎてプレイヤーをストーリーのレールの上に上手く乗せられない」という側面が特に後半に差し掛かると顕著になっており、ゲームの難易度を上げてしまっているという欠点が挙げられます。
ぶっ壊れる日常
ひたすらパチンコに興じて稼いだお金(この世界では玉)で家具を買い自室をカスタマイズしたり、釣りや合コンなどの日常シミュレーションとしても楽しめる今作。事件とは直接関係ない人や施設にもちょっとしたエピソードが用意されていて「生きた町」が存在しています。
そんな日常がしっかりと構築されているからこそ事件が起きた時の身近な体験は衝撃的なものになります。上の写真は普段ラジオ体操や祭りが開催されている公園での首つり死体。これがムービーではなく、警察が到着するまでプレイヤーが自由に動き回れるマップ上に放置され続けています。
今まで多くの推理アドベンチャーゲームを遊んできましたが、この首つり死体の衝撃を上回るものはありません。
それまで変な髪型や衣装でふざけていた日常空間を何の前兆もなく引き裂く「死」という現実。ビジュアル的なグロ表現をはるかに超えた恐ろしさを感じます。
物理的に日常が破壊される『絶体絶命都市』シリーズにおいても「死」に対しては、過剰なドラマによってコーティングする事は避けられ、淡々と「死体」という「もの」に置き換えられていることからも意図的な演出であることは明白。
ゲーム・映像表現として特異なセンスを感じさせます。
パチンコが普通に面白い
このゲームが一部のファン人気以上の知名度が得られない要因として、メインがパチンコシミュレーターだという事があると思います。私自身ギャンブルは全くやりませんし、パチンコにもあまり良いイメージはありません。
ですが今作の魅力はこの「海物語」が土台にあるからこそのもので、主人公がパチプロだという設定がストーリーや箱庭の自由度にも貢献していることは間違いありません。
風雲録全体を通して描かれる主人公のパチプロは、特にパチンコの記事を書いたりするライターでもなければ本業を持っているわけでもない、純粋にパチンコだけで生計を立てている所謂「無職」。この設定のストーリーを許諾したという一点だけで三洋物産の懐の深さが窺えます。数多く用意された選択肢によっては「パチプロ=クズ」みたいなロールプレイも可能なわけで。
このシリーズに多く出てくる町というのは今作の八原町に代表されるような、下町とも言い難い下層集落のような場所が多く、パチンコだけで喰っている主人公との相性が良い。パチプロという設定がなければこのシリーズの持つ魅力の大部分は違うものになっていたでしょう。
今作で遊ぶことになるパチンコの機種「海物語」も当然良く出来ていて、人気があるのも頷ける面白さ。
人にもよるかとは思いますが、かなり中毒性が高く、本編が実機シミュレーターだけあって完成度が高く飽きにくい。
このゲームが好きすぎて本物のパチンコがやりたい衝動にかられた人はゲームセンターに行くと型落ちした機種で遊べるので、そこで試しに遊んでみるとよいかもしれません。
続編では一人で打っている場合でも必殺技が出せますが、今作では対決時でしか出せず、ゲージも貯まり難いのでプレイ時間が長くなりがちですが、ストーリーを進めるだけなら数回のプレイでもクリア可能です。
まとめ
今作『パチプロ風雲録4 銀玉殺人事件』は箱庭世界での推理アドベンチャーゲームの傑作。この後続く風雲録3D作品と比較すると粗削りな部分が目立ちますが、ストーリーが練り込まれていて最後までプレイすると序盤には単なる面白要素だと思っていたものが意味を持ったりと、「おふざけ」と「ゲームのリアリティ」が絶妙なバランスで保たれています。推理ものとしてのシナリオも舞台設定を見事に活かしたもので素晴らしい。『絶体絶命都市』シリーズをはじめとするアイレムのアドベンチャーゲームの傑作のひとつであり、箱庭系ゲームとしても非常に個性的な作品となっています。
©IREM SOFTWARE ENGINEERING INC. All rights reserved.
©SANYO BUSSAN CO.,LTD.