みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

返校 Detention(switch)

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返校 Detention

Red Candle Games

2017年1月12日

Nintendo SwitchPlayStation 4Microsoft WindowsmacOSAndroidiOSLinux、 Classic Mac OS

 

『返校』は2017年にPCゲームとして発売、そしてその翌年の2018年3月1日にswitchでローカライズされた日本語版が発売された台湾のアドベンチャーゲーム

今回はswitch版クリア後の感想です。ストーリー終盤に関するネタバレはありません。

 

ゲームのジャンルと流れ

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ジャンルはホラーアドベンチャー

横スクロールのマップを移動して随所にちりばめられた謎を解きながらストーリーを進めていきます。敵キャラも存在し、息を止める事でやり過ごすことが出来ますが倒すことは出来ません。アクション要素はないのでアクションが苦手な人でも安心してプレイできます。

ストーリーは台風で学校に取り残されてしまった男子学生を操作して避難方法や学校からの脱出方法を模索するところからスタート。

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学校を捜索していく過程で所々に落ちているメモにプレイヤーが今置かれている状況やゲームのヒントが隠されています。上のメモには校歌が記されていますが、左ページに記されている主人公の少年が書いた文章に「愛国主義プロパガンダ」というホラーゲームでは聞きなれないワードが出てきます。

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チュートリアルが終わるころに体育館で出会う同学校の女生徒ファン・レイシン。

ここから先、プレイヤーは彼女を操作してゲームを進めていくことになるのですが、当初あった台風からの避難・脱出という目的から大きく逸脱していき、わけがわからなくなっていきます。

そういった状況がもう既に怖いわけですが、主人公がファン・レイシンに交代してから発見するメモによってこのゲームの背景が明らかに。

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メモには「中国本土との戦争」と書かれています。

つまりこの時代はまだ戒厳令が解かれる以前、中国による恐怖政治が支配する白色テロ真っ只中の台湾だということ。

このあとストーリーはこの時代の台湾の学校の生徒や教師に何が起きたのかをファン・レイシンの体験や記憶を辿りながら進んでいきます。

 

白色テロの時代

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第二次世界大戦に敗北した日本による統治が解除された台湾に蒋介石率いる中国国民党が行政を引き継ぎに入ってきますが、中国国民党による汚職や台湾人に対する暴力が横行し、1947年に中国国民党と台湾市民との間に起きた「二・二八事件」をきっかけとして台湾人による抗議活動が活発化します。

蒋介石はこの台湾市民による抗議運動を「テロ行為」とみなし戒厳令を発動。多くの台湾のエリート層が殺され、台湾市民が思想や芸術に触れると共産主義者のレッテルを貼られ厳しい処罰を受けました。

収監施設もいくつか造られて実際に使われていました。中には狭い部屋に大勢の人間が放り込まれ、手枷足枷を嵌められ鞭打たれたり虫を使った拷問が行われ多くの人が命を落としました。拷問中に「仲間の名前を言えばやめてやる」と言われ、助かりたい一心で無関係の知人の名を出す者もいて犠牲者の数は膨らんでいったようです。

このような、言論の自由が許されない中国国民党による戒厳令が敷かれた時代を「白色テロの時代」といいます。この白色テロの時代は1949年から1987年まで続きました(二・二八事件から数えるとさらに2年多い)

今作『返校』の舞台は1960年。

主人公のファン・レイシンは中学3年生。

思春期の彼女の目に当時の台湾の状況はどう映ったのか...

 

道教と鬼

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 台湾では旧暦7月を「鬼月」と呼び、1か月だけ死んだ人間の霊が降りてきて一緒に過ごすそうです。日本でいうお盆みたいなものですね。

この場合の「鬼」とは霊魂・幽霊の事を指し、元々の語源・由来である中国での使われ方に近いものです。

我々の知っている角が生えていて金棒を持っているキャラクターは日本固有のイメージで、その他にも日本の鬼は山岳信仰と結びついて天狗になったりと、妖怪・精霊といったものに変容してきた歴史があります。

中国では鬼(霊魂)に身体を乗っ取られた状態の人間も「鬼」といいますが、それが道教と結びついて生まれたのが映画『霊幻道士』に出てくるキョンシー

霊幻道士』は1985年公開の香港映画ですが、主に香港と日本と台湾で大ヒットしました。

伝統宗教として道教が根付いている台湾だから親しみやすかったのか、あるいは日本人とは違う怖さを感じていたのかはわかりませんが、今作『返校』に登場する妖怪に「息を止めていると助かる」という、キョンシーと全く同じ対策が有効なのは偶然ではないでしょう。

ただこのゲームは白色テロの恐怖を基盤として描いているので、この写真のような現実離れした巨大な霊(鬼)はテーマにそぐわないのではないかという感じもします。

 

ここら辺は日本と台湾のオカルト文化の違いなどがあるのかもしれないので、台湾の人と話す機会があったら是非聞いてみたいところです。

 

夢と現実が重なる世界

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ホラーの舞台に白色テロ時代を持ってくるというコンセプトも独特ですが、そのビジュアルもテキストに負けない異様さを漂わせています。

「夢と現実」「過去と未来」などをゲーム上で行き来する場合に発生するべき明らかな差異が全くなく、どこからが夢で、どこからが現実なのかがよくわかりません。

40年続いた白色テロのど真ん中にいる中学生にとっては、どの時間を切り取っても地獄なわけで、画面の色調や悪夢のような景色の変化は主人公ファン・レイシンの心象風景を薄いセロファンのように現実に重ね合わせただけで、目の前で起きていることは全て本当に起きたことなのではないかと信じてしまいそうなリアリティがあります。

 

まとめ

今作『返校』の開発者たちは「白色テロを題材にしたホラーゲーム」を作るためだけに集まった30代の若いチーム。当時台湾で直接被害に遭われていた方たちの中には長年の抑圧からか、あまり語りたがらない人も多い。

Red Candle Gamesの開発メンバーは自分の祖父や祖母に話を聞きながらゲームのディテールを埋めていったそうです。

表現の自由が禁じられていた台湾の長く深い闇に包まれた歴史。

これほど重く、政治的なテーマを持つ作品にも関わらず『返校』は大ヒット。中国ではこの作品を通して台湾の歴史に初めて触れた若者も多いとか。

ゲーム発売の翌月に小説『返校 悪夢再続』が発売され、2019年9月のちょうど今、映画版が台湾で大ヒットしているというニュースが届きました。

ひとつのインディゲームが現象としてここまで社会的なメッセージを世界に発信している例を私は知りません。

その成功の理由として今作の「ゲームとしての完成度」が高いことがあるのは間違いありませんが、今作の開発に関わった台湾の若者たちの歴史認識や志の高さが一本のゲーム作品として結実し大きな成果を挙げていることに感動しました。

 

 (C) 2017 by RED CANDLE GAMES CO.,LTD