みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

アイコノクラスツ(PS4)

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iconoclasts

2018年1月23日

Joakin Sandberg

PS4.PSvita.switch 他

 

クリア後の感想です。

ストーリーのネタバレはありません。

 

今作『アイコノクラスツ』はスウェーデンのインディーゲーム。

丁寧に描かれた可愛いドット絵のキャラクターたちが繰り広げる壮大なストーリーとゼルダのような謎解き、メトロイドのような探索、マリオのようなアクションというかなり欲張りで贅沢な特徴を持ったゲームです。しかもそれがある程度自然な形で噛み合っているのだから驚き。

しかしもっと驚くべきことはこのゲーム、ヨアキム・サンドバーグ氏(86年-)がたった一人で実に7年もの歳月をかけて作り上げたということ。

 

真っ直ぐなゲームへのリスペクトにあふれた作品

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今作はインディーゲームによくあるような、プレイヤーにある程度ゲームに対する造詣の深さを期待する『アンダーテール』のような構造的なインパクトはありません。

上にも挙げた任天堂やドット絵時代のレトロゲームに対するリスペクトをメタ表現を使わずに、あくまでもゲームデザイン内に留めた形で表現しています。

開発者の顔が見えず、まるで古い名作ゲームを遊んでいるような感覚に陥ります。

ゲームの主役はあくまでもゲームであり、プレイヤーはゲームを遊ぶことでその全てをゲーム内で堪能することが出来る。

一般的に使われている「意識高い系」という言葉は、開発者自身の顔やメッセージが強調されたものを指すことが多いのですが『アイコノクラスツ』のようなアノニマス(匿名性)な表現の方がよりアート性が高く、ゲームとしても間口の広いデザインになっています。

ファミコン時代にマリオをプレイして「宮本茂の新作すげー!」と言う子供はいなかったでしょう。ゲーム単品として「壊れにくい、強固なもの」を目指した今作はその完成度によって任天堂リスペクトを体現し、プレイヤーはそのゲームプレイによって開発者のゲーム観を自然な形で受け取ることが出来ます。

 

群像劇で語られる世界

『アイコノクラスツ』の世界観は序盤ではほとんど説明されず、プレイヤーはよくわからないまま喋らない主人公を動かしてアクション大冒険に駆り出されます。

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登場するキャラクターはどれも個性的でアクが強く、それぞれのキャラがそれぞれの現在の立場で言いたいことをガンガンまくしたててきます。

プレイヤーはカップルの喧嘩の仲裁に入ったようなもので、最初は片方の言い分を信じていても、両者や近しい人間の証言を聞いていき自ら全体像を把握していくしかありません。

これは『ウィッチャー3』のプレイヤーからよく聞く意見なのですが、こういった構造を持つゲームに慣れていない人は序盤に理解が追いつかない話をスキップしてしまい話が進行するにつれてますますわけがわからなくなっていくという。

世界観の土台が練り込まれたゲーム程こういったことになりやすく、その世界の中のキャラはその世界の中で自然に暮らしていて説明的で不自然なセリフは言わせたくないというのは道理に適っているし、上手くいけばゲームの大きな魅力にもつながります。

実際に今作はそういったストーリーテリングにある程度成功していてファンによる考察も盛んに行われているし、ゲームの難易度も複数選べるので2周目も遊びやすくなっています(ダメージを受けないモードが選べます)。

 

謎解きとアクション

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見た目はレトロゲーム風ですがアクションは現代風にサクサクとストレスなく気持ちよく遊べます。主人公ロビンは様々な工具を使い謎解きやアクションをしていくのですが、ゲームの進行によって得られる新しい道具や、能力を上げる装備をクラフトしていくことによって新鮮味を最後まで失わずにプレイできます。

謎解きに関しては正直任天堂のものと比べると、段階的にプレイヤーを誘導することにはそこまでの完成度はなく「え?これでいいの!?」といった簡単すぎるものと超絶わかりにくい高難易度のものが並列に存在していて困惑することもしばしば。

その大きな理由としては今作が一本道でないマップを行き来して進行していくというゲームデザインによるものでしょう。

道に迷いやすく、目に見えるパズルがあるとその先に進路を期待して高難易度の仕掛けを解いた先にいらない素材しかなくてガッカリということも。

こういう部分までレトロゲーを真似なくてもいいんじゃないかとは思いました。

ストーリーを進めていくだけなら丁度良い難易度に設定されているのですが、パズルの先が見えないことがあるので本来ならあきらめてよいはずのパズルをスルーしにくくしているマップデザインは改善の余地があるかと思います。

 

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※仲間との協力でギミックを駆使して挑むボス戦

ボス戦はどれもギミックに富んでいて一発でわからないような所謂「死にゲー」だったりもするのですが、ビジュアル的に派手で楽しいものが多く難易度もそこそこ。

 

急成長するスウェーデンのゲーム産業

今作『アイコノクラスツ』はインディーゲームだとは信じられないような緻密で普遍性の高い傑作です。国や個人の持つアイデンティティを出来るだけ削って世界標準の作品に意図的に仕上げているような印象を受けます。

スウェーデンは母国語のスウェーデン語の他に第2言語として英語が話せる人の割合が世界で最も高く、それによって音楽産業でグローバルな成功を収めています。

私が好きなスウェーデンのインディーバンドも貧民地区出身だけど国の援助でIT系の研修を受けながら普通に英語で歌っています。

ゲーム産業も2008年のリーマンショックを乗り越えた後で急成長を遂げていて、EAやUBIなど多くの大手ゲームパブリッシャーもスウェーデンに一部開発を任せています。

当ブログでも書いた私の超絶大好きな『マッドマックス』や『ファークライ3』もスウェーデン開発によるもの。

世界中を席巻した『マインクラフト』もスウェーデンのインディーゲーム。

イクラに関しては多くの日本のゲーマーが「日本が作るべきゲームだった」と指摘する通り、ゲームのスタンダードの見直し・咀嚼・換骨奪胎を経てその先のビジョンまで具体的に提示してしまいました。

もはや勝ち目なし。

ゲームデザイナーという以前に、その基盤を作る教育から負けてるしチャンスも少ない日本。

『アイコノクラスツ』は図らずも「奇抜なキャラクターや設定」を用いず、深いゲーム理解とグローバルな視点を持ったレトロゲームのスタンダードを作ってしまった、しかも個人で!

世界的に有名なゲームキャラクターをまだ持っていないスウェーデンですが、逆にここまで確立されたスウェーデン産ゲームにキャラ人気の爆発が起きたら凄いことになるでしょう。

今作は日本人の私にとっては恐るべき傑作だったのだけど、日本国内では全く重要視されていないし、相変わらず日本のゲーマーがスウェーデンのゲームを軽視しているのが残念です。

 

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