みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

ゲームと事件~元農林水産事務次官長男刺殺事件について思うこと

2019年5月28日 、川崎市登戸駅近くで起きた51歳の男による無差別殺人。2人が死亡、2人が重症、15人が怪我を負った。子供達が乗る送迎バスを狙ったもので防ぎようがなかった。犯人の岩崎隆一は自らの首を刺して搬送先の病院で死亡。

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岩崎については細かい情報がほとんどない。親戚の家で引きこもり状態にあった岩崎の部屋にはパソコンやスマホはなく、他者とのコミュニケーションが全くない状態だったようで、岩崎が映っている写真も中学の卒業アルバムのものしか見つかっていない。

マスコミが大衆を扇動するのに使ったのは犯人への怒りだったが、岩崎はもう死んでいるので唯一の特徴である「引きこもり」を犯罪者予備軍のように報道することで印象操作。「部屋は整然と整理されていて、テレビのほか、ポータブルのゲーム機やテレビにつないで遊ぶゲーム機などもあった」というテレビの報道もあり、ゲームに対しても怒りの矛先が向けられてしまった。

 

6月3日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演した精神科医斎藤環氏は「まず最も欠けているのが、海外の乱射事件などでなされていることでもある、被害者の追悼と遺族への寄り添いだ。
事件の背景の掘り下げも大事だが、初期段階としては被害者のサポート、心の問題についてのケアがなされて然るべきだと思う。そうした視点があれば、ストップウォッチのような、トラウマをえぐる報道はしないはずだ。検証するにしても、もう少しやりようがあるという気がする。被害者視点が欠けており、単純に事件を面白おかしく消費しているとしか言いようがない。そこは残念なところだ」と指摘。

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池田小事件の宅間守のように、ふてぶてしく被害者の感情を逆なでするような発言があれば私だって怒りで血が沸騰するが、岩崎はもう死んでいる。しかもわからない事ばかりだ。斎藤環氏の言う通り、どんなに大衆が怒っていてもマスコミは「被害者の追悼と遺族への寄り添い」を優先するべきだ。犯罪者予備軍を決めつけ、次の岩崎探しをするなんてストーリーは炎上商法ではないのか。まるで全ての引きこもりが同様の事件を起こすような偏見に満ちた分析はやめてほしい。

 

川崎の事件から3日後の6月1日、元農林水産事務次官の熊澤英昭(76)が長男である熊澤英一郎さん(44)を東京都練馬区の自宅で殺害するという事件が発生。

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この事件では被害者である長男が引きこもりの状態にあって、加害者である父親は事件当日に近所の小学校で行われていた運動会に対し「音がうるさい」と言う長男を見て川崎の事件を連想し「怒りの矛先が子供に向いてはいけない」と思い犯行に至ったと供述。

被害者の英一郎さんは本名でTwitterをやっており、そこでのいわゆるイキリオタクっぷりはマスコミが作り上げた犯罪者予備軍と重ね合わせやすく「こいつはやばい」「事件起こしそう」「親父よくやった」など、被害者を罵倒し、加害者を称賛する声で溢れた。

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被害者の英一郎さんが使用していたTwitterアカウント。ステラというのは彼がドラクエ10の中で名乗っていた名前の一つ。

被害者がプレイしていたオンラインゲーム『ドラゴンクエスト10』での行いや、Twitterでの発言などを見ると確かに嘘や差別的な発言が目立つが、これは特別彼に限ったものではないだろう。プライベートを盛ったり、ネット右翼的な考えの人間など珍しくもない。唯一気になるのは被害者が母親に暴力をふるっていることが自慢げに書かれている事だが、これも他人の家庭内の事なので事実確認の取れない段階での推測は出来ない。

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被害者のTwitterではしばしば母親に対する敵意が綴られていたが、熊澤家の家庭環境については不明瞭な部分が多く、被害者の言葉だけを鵜呑みにするのは危険。

家庭内暴力がひどい引きこもりの息子に耐えかねた父親が近所の小学生を守るために起こした事件という筋書きは、実に想像や感情移入しやすいものだが、あとから出てくる情報を待たずに攻撃対象を決めつけて怒りをぶつけるのは短絡的だ。

実際に被害者が実家に住んでいたのは事件発生のわずか数日前からだったり、加害者が以前から護身用ナイフを持っていたなどの新しい情報が出てきているわけだが、事件を扱った報道は鎮火していくだけなので最初の印象だけが残ってしまう。

ネットの炎上とマスコミの偏向報道が合わさることによって、まるで宮崎勤や松本サリンの時代へと逆行しているように感じる。

 

オンラインゲームは有害か?

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様々な事件報道で標的にされることが多いゲームだが、凶悪犯罪とゲームを結び付けるような研究結果は今の時点ではない(http://interpersonalresearch.weebly.com/uploads/1/0/4/0/10405979/ppmc_-_vvgs_and_real-world_violence.pdf)。かつてチャールズ・マンソン一味がテレビのインタビューで「俺たちは毎日テレビで戦争映画を見ている!」と答えていたが、犯罪をメディアやエンタメのせいにするのは犯罪者側の理屈だ。

例えばソシャゲに課金しすぎて借金を背負い銀行強盗する人間がいたとして、それはゲームのせいではなくて課金システムが悪いのだ。

ではオンラインゲームの「オンライン」の部分はどうか。

最近多い対戦型(PVP)のものに限っては、まず1試合の時間が短くゲーム自体の値段も安く課金要素はソシャゲのガチャに比べると遊びの範囲を越えない設定になっている。

これも人によっては中毒性があるともいえるが、的確な操作と集中力が要求されるため中高年者が長時間プレイできるものではない。eスポーツにおいても上位ランカーは20代が大半を占めている。

一方今回の被害者が遊んでいたゲーム『ドラゴンクエスト10』(以下ドラクエ10)はMMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロール・プレイング・ゲームの略)と呼ばれるタイプのゲームで、ゲーム内の世界に自宅や街などの自由に歩き回れる仮想現実空間が存在していてチャットによる他プレイヤーとの交流が盛んに行われている。

他のゲームのような多人数バトルも存在してはいるが、一人で遊べるものも多く、プレイヤースキルやコミュニケーション能力が低くても困ることがあまりなく、長時間プレイしていても疲れないのでネトゲ廃人を生みやすい。

海外のMMOや、それを模倣した国産のMMOと違い、ドラクエ10はMMO初心者をターゲットにすることでゲームの敷居が低く設定されており、他のゲームについていけないような人やドラクエ世代の中高年者達の憩いの場としても機能している。

ただ、2012年のゲームである。私が定期的にこのゲームを遊んでいて思うのは、ここ2年程のドラクエ10にはもはや依存性がないのではないかということ。理由としては、オンラインゲームで重要なキャラクター強化の部分が完全に終わってしまっているということ。

ゲーム開始時に設定されたデザインの伸びしろは既になく、ストーリーを終えたプレイヤーは休止するか仲の良いフレンドとチャットするくらいしかやることはなくなっている。しかし、その考えは今回の事件の被害者のTwitterを見たことで砕かれた。

被害者の英一郎氏はゲーム内でとっくの昔に形骸化してしまった初期のコンテンツを延々とこなしていた。問題発言・行動によって運営にキャラを削除されてもまた一から作り直してコツコツとレベルを上げていたのだ。

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被害者が毎日欠かさずこなしていた日課。ここに書かれているものだけでも2時間近くかかる。ドラクエ10にはこれ以外にも週や月ごとにやらなければならないことが山ほどある。

最新のゲームについていけないドラクエ世代の吹き溜まりとして機能していたドラクエ10だが、逆に言えば2012年という閉ざされた空間に彼らを閉じ込めてしまっているようにも思える。ビジネス的にはドラクエというIPを延命させる為のノスタルジアマーケティングだが、一部のプレイヤーにとってのドラクエ10は永遠にぬるま湯に浸かってロールプレイできる理想郷のようなものになっている。そんな状況に甘えて運営側もゲーム作りにたいして力を入れていない。いわゆるゲーマーと言われる層や純粋なドラクエファンは半年かそこらで去っていく。

1年以上継続して毎日プレイしている人は、たとえそれが惰性だとしてもプレイに何かしらの意味付けをしなくては「やっていけない」状態になってくる。もちろん例外はあるが、被害者のツイートを見ると「楽しむ」「有名」というワードが多く散見される。これらが意味するのは、もはやドラクエ10のゲーム性とは関係のない、終わりのない仮想現実の中を生き続ける知恵だ。自分の世界を壊そうとするプレイヤーや、時には運営に対する攻撃性はプレイ時間が長い者ほど強い傾向にある。これがさらに悪化すると「自分より楽しそうにしている人」や「ゲーム内の有名人」にまで攻撃しはじめる。被害者の迷惑行為も主に有名なドラクエ10ブロガーに対して向けられることが多く、そういった迷惑行為で自分自身が有名になることに対してまんざらでもなかった様子が伺える。

被害者の父は農林水産事務次官というエリートで、被害者自らそれを公言していた。ドラクエ10というゲームの世界でもう一つの人生をやり直そうとしていた被害者にとってゲームの中でも特別な存在になろうとしたのは必然のように思う。Twitterでのネット右翼的思想やスルメロック氏の漫画、植松聖に賛同するような優生思想っぽい発言も、本気でそう思っていたというよりはゲームの世界(仮想現実)の流れの上での発言のように思える。

加害者は長男が川崎事件の岩崎のようになるのではないかと危惧したと供述しているが、私にはそうは思えない。少なくともドラクエ10にそのような危険性はない。ある種の人間にとって引きこもり状態を長引かせるような側面はあるかもしれないが、今回の被害者にとってはむしろ受け皿になっていたように思える。被害者はドラクエ10の世界を存分に楽しんでいたし、近く来るアップデートも楽しみにしていた。自分を受け入れてくれる世界やコミュニティを持つ人間が、それらすべてをぶち壊しにする行為を果たしてするだろうか。現実の自分自身とのギャップに苦しんでいたとしても未来への経済的な不安はない。川崎事件の岩崎とは何もかもが違う。

 

精神疾患発達障害の可能性

被害者はTwitterにおいて自身の病気に関するいくつかの記述を残している。私はそういった病気に関しての知識があまりないので何とも言えないが、事件当日に被害者に向けられた「いつか事件を起こしていただろう」「犯罪者予備軍」などの誹謗中傷の言葉にはあまりピンと来ていない。彼のTwitterを読めば読むほど今まで見てきた犯罪を犯すような人間とは似て非なるもののように思えてくる。自分は幸せだという記述が繰り返し出てきたり、仮想敵に対しての仮想の恋人(ここらの真偽は現在不明)とのプラトニックな恋愛話など、どこまでも際限なく過激になっていくタイプというよりは彼自身の中で愛憎が拮抗しているような印象を受ける。

 

ドラクエ10関係の有名人の中には、最初は良いイメージで有名になり、本人がそのイメージを拡大させるために嘘を重ねてしまい、それを責められることで攻撃性を強めたり被害妄想に憑かれ、裁判や自殺をほのめかすようになりアンタッチャブルな存在になっていく過程をいくつか見た。そういった人を擁護している仲間も、結果的には火に油を注いでいるだけで問題解決の方向へは向かわない。

2ちゃんねるやニコニコの時代から彼らのような人達は「おもちゃ」と見なされ弄ばれてきた。彼らには本当のファンもアンチもいない。ただいじめられて、壊れたら次のおもちゃにターゲットが移行するだけだ。

被害者が発達障害精神疾患を患っていた可能性を報道するメディアは少なかった。これだけ加害者に都合の良い供述が鵜呑みにされた事件というのは珍しい。近い時期に起きた事件との類似性(こじつけ)や、オンラインゲームという特殊な環境やSNSにおける被害者の尖った発言を切り取って組み立てられた信憑性の薄いストーリーによって殺人が正当化されてしまった。

発達障害精神疾患だと認定されている人間がいくらそれを訴えたところで、ほとんどの人には対処法が解らない。結果的に彼らは嘘つきと責められ、周りに対して攻撃し始める。孤立した人間がインターネットで全能感を得ようとして差別的な思想に毒されるのは当然のように思える。その攻撃性は、彼らに対する想像力が欠如した人達のひやかしによって加速する。私自身、そういった疾患を持った人との付き合い方はわからない。

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最初はただの気分屋くらいに思っていた友人から突然一線を越えてくるような中傷を受ければ嫌悪感を抱いてしまうし、アスペルガー症候群に理解のない人との間には埋めることの出来ない溝を作ってしまう。こういった病気への理解がないままネット時代に突入してしまったのは悲劇だ。症状の重さには個人差があるが、少しでも癇癪を起こす人がいたら距離を置くしかない。少なくとも、彼らを焚き付けて炎上させるよりは良い。

現在、ドラクエ10などのオンラインゲームは一部の行き場のない人たちの受け皿になっている。社会の中に彼らをきちんと理解して受け入れてくれる場所があればゲームなどいらなくなるはずだ。だから今、彼らからゲームを取り上げるようなことだけはしないでほしい。

 

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