FIREWATCH
Campo Santo
2018年2月8日(日本語版発売日)
クリア後の感想 ※多少ネタバレあり。
PS4版をプレイする際にまず気を付けてほしいところがあります。
字幕がオフになっているので最初のメニュー画面で直しましょう!
最初知らずに始めてしまったのですが冒頭のテキスト部分が全部日本語なので結構長い間気が付きません。
ゲーム本編が始まると音声による会話が聞こえるのですがそれらが全て英語で、そこで初めて気が付きました。
さて『FIREWATCH』ですが、インディーのPCゲームの中でもかなり有名な部類の傑作とされており、PSストアでもセールの度に目に留まることも多かったので買って遊んでみました。クリアまでは約5~6時間ですね。
このゲームはFIREWATCHというタイトル通り、プレイヤーは主人公のヘンリーを操作して1989年のアメリカ・ワイオミング州の森林監視員として山火事が起きないよう監視塔から森を見張ります。
FPSなどでよく採用される一人称視点で結構な広さのオープンワールドを自由に探索することが出来るのですが、マップが地図に反映されないのでかなり迷うことがあります。私もゲーム序盤の真夜中にうっかり探索に出てしまい道に迷って帰れなくなってしまいましたが、一度迷ったおかげでその後の探索がスムーズになるくらいにはほど良い広さです。
優しいタッチで描かれた森はゲーム内の時間や天候によって様々な表情を見せる
冒頭に語られる主人公の過去
そもそもなぜ主人公のヘンリーは森林監視員という仕事を始めたのか?といういきさつが冒頭でたっぷりと語られます。
かなり重たい話ですが、誰にでも起こりえるような身近さもあり多くの人に訴えかけるような内容になっています。
この冒頭のテキストの巧さは直接ゲームのストーリーには絡んでこないのですが、全く人との接触がない森林監視員という仕事のシミュレーションに馴染めば馴染むほどヘンリーのバックグラウンドがプレイヤーの気持ちを揺さぶってきます。
ヘンリーは妻を妻の実家に預けたままにして来ているのですが、上記したように森で迷って同じところをぐるぐる周ってふと天候の変化や、それによってさっきとは違う表情を見せる森の景色に足を止めた時に「俺は妻を置いてこんなところで何やってんだろう」と、完全にヘンリーの気持ちになって考え込んでしまいました。
私だけかもしれませんが…。
いやでも最初に畳みかけられる情報量の濃い話と、その後に放り出される広大な森とその静けさは意図的な演出でしょう。
唯一の話し相手デリラ
基本的に一人寂しく監視塔で森を見張るヘンリーですが、一番近くの監視塔職員であるデリラという女性とだけ無線で会話することが出来ます。
近いと言っても崖で隔たれており2人が会うことはありません。
ヘンリーもデリラも何かから逃れるようにしてこの仕事に行きついたという経緯があるのでそこまで深い話もしない。
でも探索で何気ないものを発見してデリラに報告していくうちに二人の会話は弾んでいき、ほんの少しづつですが距離感が縮まっていく過程が本当に良く出来ていて、そこでは様々な選択肢が提示されるのですが、言わなくてもよい自分の過去の話までしてしまったり、それによってその後の何気ない会話に変化を感じたりと、プレイヤーの感受性や洞察力をある程度信用した上での心の機微を感じられる表現が多く用いられています。
人によってはアート臭を感じてしまい敬遠されるような表現かもしれませんが、シチュエーションやマップの広さなど、この世界観を構成している要素を引き立たせる演出としては極めてゲーム的であると思います。
デリラはたまに酔っぱらって無線で絡んできたり怒りっぽい側面もあるのですが、静かな森の中で一人きりでいると、そんなデリラでも十分慰めになります。
当初ヘンリーの話し相手は人形や小動物でも何でもいいんじゃないかとも思ったのですが、「寂しい人間がわざわざ寂しい場所に来ている」という設定がデリラの存在によって「今は一人きりにしておいてほしい…でも少し人の声も聞きたい」という(良い意味での)甘やかしに繋がり、一人きりではとても耐えられそうにない孤独な監視員生活を豊かなものにしてくれています。
ミステリ要素
監視を続けていくうちにいくつかの奇妙なものを発見することがあります。
それらは実際取るに足りないようなものだったりもするのですが、なまじっかデリラという話し相手がいるばかりに話があらぬ方向へ向いたり不安が大きくなってきたりします。
このゲームを従来のミステリと思って進めていくとがっかりするかもしれません。
しかし森林という舞台、一人であること、デリラという顔の見えない話し相手というシチュエーションさえ揃っていれば、あとはほんの少しプレイヤーの神経に触れる仕掛けを用意すれば勝手に疑心暗鬼になったり陰謀論を唱えだしたりしてくれる…という舞台装置そのものが本作の魅力なのではないかと。
ストーリーのラストは賛否両論ありますが、私は自分の中で大きく膨らんでいく不安を「杞憂であってくれ」と願いながら終盤プレイしていたので、ストーリーの結末よりもそこまでの過程が非常に素晴らしく思えました。ミステリよりもホラー映画的な楽しみ方がわかっているとすんなりと受け入れられる話だと思います。
今作『FIREWATCH』は、普段人間を殺しまくるFPSと同じ視点と操作で「何も起こらないでくれ、杞憂であってくれ」と強く願わずにはいられない傑作アドベンチャーゲームでした。