相変わらず面白い雨穴氏の新作。人気の勢いがあるうちに高いクオリティを維持しながら連続で作品を発表し続けているのがすごい。
内容的にはこれまでの3作品とほぼ同様の構成になっていて、とても読みやすいです。
序盤に「地図」の画像を出して読者の想像力を掻き立て考察を促しつつ、その想像の先を行く謎が次々と提示される。
主人公や読者の推理を裏切るように展開される前半部分は不気味としか言いようがなく、この作品が持つホラー成分が凝縮されていて本当に怖い。
主人公はこれまでの作品でお馴染みの「栗原さん」で、彼が青年時代に遭遇した事件を雨穴氏が自伝として書き上げたという設定。
そして栗原視点とは別に「沖上喜見子」という謎の人物による手記が小出しで挟まれる。
亡くなった祖母が残した地図の謎を解くため、母娘山という場所に向かう栗原。
地図には母娘山と、その周辺の集落や河蒼湖という湖が記されていて、実際にそこを訪れてみると地元の名士である矢比津鉄道の会長「矢比津啓徳」が支配する村という特殊性が露わになる。
中盤辺りからは、戦中から続く矢比津鉄道の歴史と、沖上喜見子の手記の内容が読者の頭の中で繋がりはじめ、読者の推理が栗原の推理を追い越す瞬間がある。
「あ~、栗原さん、そこちょっと違うんだよなぁ」という優越感と歯がゆさが、読む者に演劇的な没入を促す。
そうした感情を読者に喚起させた直後には栗原による怒涛の推理が始まり、ミステリ的な伏線回収と歴史的背景に根差した人間ドラマが展開されます。
ホラー作品は必ずしもすべての謎を解く必要はないのですが、雨穴氏の作品は最後まで読むと怖さの正体が白日の下に晒され、スッキリとした読後感を与えてくれるのが特徴的。
物語後半は栗原青年の様々な感情が描写され、スリリングな展開にのまれてあっという間に読み終えてしまう。
この見事な構成からは、雨穴氏の作品が広く、ホラーが苦手な人にも刺さっている理由がうかがえます。
そして、そうした作風にも関わらず、雨穴作品がライト層だけでなく生粋のホラー好きにも刺さってしまうのは、やはり冒頭に提示される手記と地図から受ける得体の知れないオカルト感でしょう。
前作『変な絵』に出てくる絵とは趣向を変えた、妖怪を思わせる直球のホラーテイストで書かれた地図。そこに物語がしっかりとした輪郭を与えているのでこじ付け感がない。。
尚、今作は発売と同時にいつものYouTube動画の新作と、物語序盤2割程度の無料お試し版が公開されています。
動画では小説の「あとがき」に書かれていることがあっさりと明かされたり、栗原の父親が好きだったマンガが「諸星大二郎」から「どろろ」に変更されていたりと、違いを見つけるのも楽しい。
そして何よりも、雨穴氏と栗原の漫才みたいなやりとりに笑わせられてしまいます。
ホラーが苦手な方でも、最後まで読み、真相を知ることで「いい話」として消化できる。
雨穴氏自身、ミステリ的な着地はホラー作品としては邪道だと思っているとインタビューで答えていましたが、ホラー小説というジャンルを広く普及させる戦略としては圧倒的に正しいし、ここまで毎回ちゃんと面白く、しっかりと怖いものに仕上げているのは凄すぎます。
