PS4に移植された『シェンムーⅠ&Ⅱ』。『シェンムーⅡ』をプレイするのは今回で3回目。最初はドリームキャストで。4枚組ディスクの3枚目終盤まで行ってセーブデータが破損。2回目はこのPS4版。前回と同じく九龍城の終盤まで行ってPS4が逝ってしまいセーブデータも消失。
約20年ぶりの新作を目前として、半ばやっつけモードでプレイ。そして、ついにクリア。
シェンムーは大好きだけど、正直『Ⅱ』に関してはあまり良い印象はなかった。1作目の地元感が好きだったので、『Ⅱ』は単純なスケールアップに過ぎず、それに伴う理不尽なQTEの増加に辟易としていた。
確かに素晴らしい作品だとは思うが、リトライ地点の設定含む戦闘バランスは2019年の現在プレイしてみると、当たり前だけど古臭い。
だからこの感想文もクリアしないで書いてしまおうかと何度か思った。今考えると本当に書かなくて良かったと思う。
『シェンムーⅡ』をクリアした瞬間、たった今からこのゲームは私の中で「最も好きなゲーム」になってしまった。
全ては白鹿村に通じる。
ここまでやって、やっとこのゲームの真価を身をもって痛感した。
桂林の船着き場で船から降りた私はただただ呆然とし、涙した。
地元横須賀の人達に別れを告げて旅立ち、香港では金を盗まれ1文無しになり、数えきれない多くの人に助けられ、単調な日雇い労働で安宿の宿賃を払った。
九龍城での辛い戦い。2度もクリアしかけたのにセーブデータが破損して冒険を諦めた。
それを乗り越えてからの長い白鹿村までの山道は、これまでどんなゲームでも体験した事の無い高揚感を感じられた。主人公である芭月涼の体験が、まるで現実に自分が体験してきた事のようにフラッシュバックされる。
「主人公はプレイヤーであるあなたです」というゲームは多い。
没入感を得る効果としては正しいし、キャラメイクや見た目の変化、選択肢による分岐など、ゲームとして「より楽しくなる」要素だ。
3Dゲームに「FREE」という新しい設計思想を掲げて登場したシェンムーは、オープンワールドの始祖とも言われる自由度の高さを実現したゲームだ。
だが、主人公はあくまでも芭月涼であって、私ではない。
涼の一見ぶっきらぼうな態度や、父の仇という目標に向かって突き進む一本気な性格が自分とリンクする部分は少ないし、安易な感情移入を許さない厳しさもある。
にも関わらず涼の体験は確実に私自身の体験のように、まざまざとリアルに感じられるのだ。
ストーリーのシナリオ・演出の巧みさはもちろん、深い考察と解釈によって積み重ねられて創造された世界が土台にあることでそれは達成されている。
ロックスターゲームスの『GTAⅣ』や『RDR2』も根っこの思想は同じだか、『シェンムーⅡ』はそれらと比べても突出した完成度を未だ堅持している。
シェンムーは多くのRPGと同じく「旅」がテーマになっているが、そのこだわり方は他を圧倒している。
行く先々で出会う人達は、その土地で職や住居を持ち、それぞれに個々の生活がある。その情報量の多くはゲームの進行に直接関係のないものばかりだが、そこには確かに生きた街があるのだと感じさせる。ただそこを歩くだけで自分がこの街でどのような存在なのかを理解出来てしまう。
仲間にしてもそうだ。過剰な演出を排し、決して多くはない交流や会話のやり取りなのに、彼らとの別れの際には「また会いたい」と強く思わずにはいられない。
このような効果を出すには、実はテキストのみでも可能で、『ファイアーウォッチ』というゲームでは冒頭に都会生活のテキストが延々と流れた後にプレイヤーを山奥に放り込むことで同じような効果を出すことに成功している。
しかしシェンムーが偉大なのは「地元から旅立つ」という、たったそれだけのシーンをゲームまるまる1本分作り込んでしまった事だ。そしてその1作目の記憶は2作目の旅先で何度もリアルな体験として蘇ってくるのである。
1作目の体験と2作目終盤までの過酷な道のりは白鹿村へと向かう道中で見事に浄化される。
恐ろしく長い山道は一見するとコピペされた木々の集合にも見えるが、よく見ると巨大な木があったり、岩の形が違ったり、数種類の花を見つけることが出来る。山道を歩いている途中は同伴している少女とたわいない会話をする以外は特に何も起きない。アイテムも落ちてなければ敵が襲ってくることも無い。だが、ふと立ち止まって木々を見上げたり、見たことのない花に目を止めてしまう。
それまでの都会の喧騒とは真逆の、誰もいない山道を延々と歩いていると、本当に遠くへ来てしまったのだと感じる。
ただのエリア移動だ。
その、ただのエリア移動をここまでリアルな体験として感じさせるゲームとしてシェンムーほど意識的に作られたものはないと思う。
ゲームが、ゲームとして成立させる為だけに付け加えたゲームを、我々がそれをゲームだと認識する為だけに消費させられるのはもうウンザリなんだ。
ゲームでしか体験出来ないものに向かって、ここまで愚直に突き詰めた作品は他にない。
最初に書いた戦闘バランス等の問題も、最後までプレイすることによって全て帳消しだ。
無駄なものなど何もない。
完璧だと思う。
🄫SEGA