みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

アイドルマスター.KR(Amazonプライム・ビデオ)

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アイドルマスター.KR

脚本 シン・ヘミ, ウォン・ヨンシル
監督 パク・チャンユル

2017年

Amazonプライム・ビデオ

 

アイドルマスター.KR』は日本のゲーム『アイドルマスター』をモチーフとした韓国ドラマです。現在日本の動画配信サイトで配信しているのはAmazonプライム・ビデオのみで、日本語吹き替えはありません。

とにかく面白くて最後まで一気に観せてしまう魅力を持っている今作ですが、構造的にかなり特殊で、詳しく調べることでいろんな仕掛けが解ってより面白くなるので感想を交えて紹介していきたいと思います。

 

韓国と日本のアイドルの違い

今作に登場するアイドルReal Girls Projectのメンバーは実際にアイドルを目指している・経験している女の子を全国から募集して日本人1人、タイ人1人と韓国人8人の計10人(途中一部退場・追加あり)からなるメンバーが組まれましたが、その一次審査方法は各々がYouTubeInstagramに載せたプロフィールへの一般評価によるものでした。日本にもAKB総選挙のような投票形式のものはありますが、韓国ではデビューを決定するオーディションにおいてもプロだけでなくファンの投票に委ねる番組も多く存在します。

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ドラマ開始早々に20代後半のアイドル研修生が登場しますが、これも日本ではかなり特殊に見えますが、韓国ではそこまで珍しくありません。

日本のアイドルの歴史は古く、テレビや歌謡曲と共にありながらサブカルチャーをも取り入れた良い意味でも悪い意味でもガラパゴス的な独自性やゆるさ(発掘からデビューまでの期間が短い)があるのに対して、韓国でのアイドルというのは90年代後半から顕在化した概念であり、世界的な成功を視野に入れた国際的なアーティストとしてのアイドルを育成するために莫大な資金が投入されています。素人からすぐにアイドルになるようなパターンはほぼなく、長期間の実践トレーニングを積んでからデビューします。なので研修生期間が長いアイドルが生まれやすい環境があります。

ドラマの中では事務所社長自らジャンルの異なる女の子たちをスカウトして育てていくわけですが、この展開は日本のアイドルのエピソードっぽいですね(日本の昭和アイドルは原宿でスカウトされて~というようなパターンが多かった)

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そのスカウト組と研修生のチームにプロデビューをかけて毎回課題を与えて対決していくというストーリーなのですが、こうした育成過程を描きながらのドラマ展開は原作のアイドルマスターに通じるものがあります。韓国のオーディション番組はアメリカのもののような公開形式が多いのですが、日本ではテレビ東京ASAYAN』でのモーニング娘。のようにリアリティショー形式で見せていくものが2000年前後に流行しました。

それをさらに発展させたAKB48は過酷な状況にアイドルを追い込みすぎて半ば残酷ショーのようなグロテスクなものになってしまったので、リアリティショーをフィクションにしながら本当にアイドルを目指している女の子たちを使うというリアリティを織り交ぜた『アイドルマスター.KR』の手法は画期的かつ理想的です。

 

女の子たちの魅力

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ドラマのストーリー的にはスジを軸に、彼女の妹であるスアの死の謎を解き明かしていくことになるのですが、その他の登場人物も決して脇役に甘んじることなく丁寧に描かれているのが今作の大きな特徴。

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アイドルたちは皆本名での出演で、役柄にも彼女達の実像が大きく反映されています。これによってアイドルドラマにありがちな演技力のバラつきや不自然なキャラクター描写によって視聴者が受ける違和感は軽減され、いつの間にかアイドルたちの魅力によってストーリーが引っ張られて行きます。これだけ多くの女の子たちが出演していながら、それぞれの細かい関係性が隅々まで描かれているドラマも珍しいです。キャラクターの特徴がきちんと描かれているので、ドラマ中に起こる小さな出来事に対するそれぞれの感情の機微や、様々な状況に置かれたキャラクターの立ち位置や組み合わせにも一喜一憂してしまいます。普通はもっと特定の曲が必ずかかるとか、売り出したいタレントの出番だけ多い等の事務所・スポンサー的な制約が見えてしまうものですが、今作においてそういった要素は最低限に抑えられており、最後まで目が離せない展開が続きます。個々のタレントとのディスカッションを基に丁寧に作られたドラマと、全24話という長さによってアイドルたちの魅力が余すところなく生かされている作品になっています。

 

カンプロの魅力

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Real Girls Projectのアイドルたちを擁する825エンターテイメントのプロデューサーを務めるソンフン演じるカン・シンヒョクも今作を支える大きな魅力的要素の一つ。

常にポーカーフェイスで、アイドルたちにもめちゃくちゃ厳しいのですが、ふとした瞬間に見せる表情がとてもかわいい!女性視聴者からすれば、今作で初めて魅かれるアイドルはカンプロかもしれません。彼自身がものすごくアイドル性が高いんですよ。

 

偏見なく見てほしい作品

韓国では同時期に大きなオーディション番組が乱立してしまい今作『アイドルマスター.KR』は目立つことが出来ずに埋もれてしまったようです。もったいない!

日本でも原作であるアイマスは基本的に声優ファンに支えられているし、現役のアイドルファンはわざわざ生で見ることが困難な他国のアイドルを追うことは稀。

アイドル云々抜きにして純粋にドラマとして面白いのでフラットな目線で見てほしいとは思うのですが、アイドル・ゲーム・韓国というジャンルや国に対する偏見は多くの人達に高いハードルとなって立ち塞がっています。

私自身はかつてハロプロなどのアイドルにハマっていたのですが、アイドルを「応援」することの重みに耐えかねて逃げ出してしまった経験があります。

アイドルに対する世間からの偏見と、それを助長するようなファンやアイドル仕事をこなしているアイドルたちの姿。女性アイドルに限って言えば、短い期間の貴重な少女性を売りにし、20代前半で寿命を迎えるという残酷なビジネスや、その中で病んでいく子達も沢山見てきたし、あまり売れていないアイドルならグッズやファンクラブを通しての投資の個人的負担が大きく、それらが更に彼女たちを追い詰めていく環境に自分自身が参加していることに耐えられなくなりました。

一度アイドル文化に浸かってしまうと「応援」のハードルは上がり、たまに気に入った曲を見つけても「CDを買っただけではファンと呼べないのでは」と思い、日を追うごとにアイドル文化から離れていってしまいました。

そんな私にとって『アイドルマスター.KR』は、自分がアイドルを好きになった原点へ帰してくれながらフィクションとノンフィクションが交差するストーリーへと導いてくれました。日本と韓国のアイドルが持つ良い部分だけを切り取ったドラマは都合の良い幻想だと笑われるかもしれませんが、醜い現実にはウンザリだし、その醜さとアイドルの魅力とは全く関係がないものです。

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ドラマ中にもアイドル同士の嫉妬や対立、ビジネスにおける大人の都合などが描かれ、単純な成功物語に着地せず、終盤のステージでは彼女たちのリアルな希望と不安がないまぜになったシーンが描かれます。

ドラマの本当に最後の場面、スジの「私たちがあなたを応援するから」というセリフにこのドラマの素晴らしさが凝縮されています。日本と韓国のアイドル文化を解体し、アイドルの魅力だけを再構築したフィクションによってアイドルとそのファンをビジネス的な足かせから解放し、最終的にその関係性を逆転する発想は原点回帰でもあります。本来多くの人達に歌やダンスで元気を与えるはずのアイドルが、いつの間にか欲望のはけ口となり、投資の見返りとして若さを消費するのは結果的に提示される風景こそ正常に見えてその内実は捻じ曲がっています。『アイドルマスター.KR』が提示した世界観は本来そうあってほしいアイドルの世界で、多くのアイドルを目指す女の子たちが夢見る世界です。厳しい競争社会ですが、それぞれの個性が尊重されて切磋琢磨する現場は様々な利権が絡む芸能界では理想でしかないのかもしれませんが、プロの世界としては正常だと思います。

ドラマの中では彼女たちの今後の活動や楽曲の宣伝などが全くなく、あくまでもフィクションとして最後まで描き切っています。これも言ってみれば、アイドルドラマとして理想的な制作を実現しています。Real Girls Projectのアイドルたちはどの子も魅力的で楽曲も素晴らしいので多くの方たちに観てほしいドラマです。

 

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