みやび通信

好きなゲームについて色々書いていきます。たま~に攻略記事あり。

サマーレッスン 宮本ひかり(PS4)

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サマーレッスン 宮本ひかり

バンダイナムコエンターテイメント

2016年10月13日

playstation4

 

『サマーレッスン:宮本ひかりエクストラシーン茶店編』『サマーレッスン:宮本ひかり エクストラシーン 花火大会編(衣装&シチュエーション)』を含む全追加コンテンツ購入、真エンディング後の感想です。

 

本作『サマーレッスン 宮本ひかり』はPSVRのローンチタイトルとして配信されたものですが、それ以前からPSVRの約2年間にわたるお披露目&宣伝期間を共に歩んできた歴史があります。

当初はPSVRのデモコンテンツという扱いだったものがユーザーの大反響・要望に応えてソフト化に至りました。

『サマーレッスン 宮本ひかり』の率直な感想としては、正直大変驚き、感動しました。

これまでのギャルゲー含む美少女文化の系譜をしっかりと踏まえながら現代風にアップデートされた感覚をPSVRに落とし込む発想と、そこで得られる疑似体験のリアリティ。

少し長くなりますが、その理由をギャルゲーの歴史を辿りながら説明してみたいと思います。

 

疑似恋愛文化・ビジネスの変遷

1.ときメモからのハーレム化

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初代『ときめきメモリアル』。シビアなパラメータ管理が特徴的。

©1995 Konami Digital Entertainment

恋愛シミュレーションゲームの走り『ときめきメモリアル』(1994年、コナミ)におけるゲームによる恋愛の疑似体験とは「相手を落とす」ことに主軸が置かれていました。

限られた期間の中でプレイヤーキャラのパラメーターを上げて成長し、ターゲットとなる女の子を攻略するという、非常に戦略性・ゲーム性の高いデザインは多くのプレイヤーを苦しめ、メインヒロインの藤崎詩織は「ラスボス」と呼ばれていました。

ときメモ』が巻き起こしたギャルゲーブームは同人やエロゲを巻き込んで多様化していくことになるのですが、その過程で『ときメモ』が持っていた戦略性・ゲーム性は削ぎ落されてシナリオ重視の紙芝居型のものが増え、プレイヤーの成長要素よりも様々なルート分岐を回収してCGを集めることが多くのギャルゲーのゲームプレイのメインになっていきました。

これによってギャルゲーは「現実の恋愛のシミュレーション」(本当は全然違うが)という煩わしさから解放されて、プレイヤーは「特に何もしていないけど女の子たちが寄ってきて勝手に話が進む」状態になります。

こうしたいわゆる「ハーレム状態」はその後の「セカイ系」「なろう系」といわれるライトノベルに見られる特徴と直結しています。

 

2.ラブプラスの拡張現実

アニメ監督の神山健治氏によれば、90年代からアニメの世界に入りたいという願望を持ったアニメファンたちが増えていったといいます。

 

その感覚はバーチャルリアリティーだったと思うんですが、彼らは2次元に行けないことに気付き始め、今度は2次元の方から来てほしいと考えた。
そして、2次元から来たのがラブプラスだった。

神山健治 「AR Commons Summer Bash 2010」リポート

 

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DSで発売された『ラブプラス』はゲームキャラと結婚式を挙げるプレイヤーまでいたりと、AR・拡張現実の可能性を広げた。©Konami Digital Entertainment

2009年にニンテンドーDSで発売された『ラブプラス』(コナミ)は、恋愛シミュレーションゲームの世界にAR・拡張現実をもたらした全く新しいタイプのゲームで、結果多くの人々に受け入れられ「ラブプラス旋風」という社会現象にまでなりました。

DSの内臓時計によるスケジュール管理はプレイヤーの現実世界とゲームの世界を繋げ、ストーリーは省かれ、そのかわりにプレイヤーに語り掛けてくる女の子の膨大なテキストによるコミュニケーション。

ラブプラス』は、どこでも持ち運べるDSの特性を最大限に生かしたゲームでした。

ラブプラス旋風が去った後、『ラブプラス』がもたらした恋愛シミュレーション要素は薄められた状態で別ジャンルのゲームに吸収され、それ以前のノベル系のものはラノベやアニメに吸収されて、恋愛シミュレーションゲームという独立したジャンルのものは下火になっていきました。

 

3.アイマスAKB48

2009年の『ラブプラス』からさかのぼる事4年前の2005年、ナムコによる『アイドルマスター』(通称アイマス)の一作目がアーケードで誕生しました。

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アーケード版のアイドルマスター。開発は2001年からスタートしていた。

©BANDAI NAMCO Entertainment Inc.

それから2年後にXBOX360版・通称箱マスから2019年の今日までに展開し続け人気を維持しているアイマスシリーズは、ギャルゲーの歴史の中で商業的に最も成功したタイトルといえます。

箱マス発売と時を同じくして2005年に秋葉原で活動を始めたアイドルがAKB48

AKB48もまた、売上だけを見れば国内で最も成功したアイドルグループです。

アイマスAKB48との間に相互的な影響はありませんが、強いて言えば両者ともハロープロジェクトの「モーニング娘。」を意識して作られたものだということが挙げられます。

 アイマスAKB48が頭角を現し始めた時期というのが、ラブプラス旋風が吹き荒れた2009年以降。

2009年にAKB48初の「選抜総選挙」が行われ、2010年「ポニーテールとシュシュ」「ヘビーローテーション」などのヒット曲によって地上波のテレビで大ブレイク。

一方アイマスは世間的な大ブレイクこそないもののXBOX360PSP・DSなどの携帯機での発売、2007年頃から初音ミクと共にニコニコ動画の人気コンテンツとしてネットでの知名度を獲得し、『THE IDOLM@STER 2』(2011年)のPS3版発売によって一般ゲーマーへの知名度も浸透しました。

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 2010年にはAKB48がゲームにも進出。

『AKB1/49 アイドルと恋したら…』がPSP・VITA専用ソフトとしてバンダイナムコから発売され、その後2本の続編を含むシリーズ総売り上げは100万本を突破。

1作目の初日25万本という強気の出荷本数の理由は、各店舗によって異なる特典(生写真)を付けるといういわゆる「AKB商法」によるもので、ゲームの内容自体はPSやサターン時代によくあった実写もののような「ファングッズ」の域を出ないものでした。

AKB48テレビ東京の番組「ASAYAN」でモーニング娘。が見せてきたドキュメンタリー的な手法を過剰に発展させたプロモーション展開をしていきます。

「会いに行けるアイドル」から選抜総選挙における残酷ショーと、その舞台の裏側を見せていく演出はファンの応援を加速させ、握手券などのメンバーと接触できる権利を付けたCDの複数買いによって現在までオリコンランキング上位を独占している状態。

 

一方アイマスのプロデューサー・坂上陽三氏はAKB48の総選挙には否定的な見解を示していて、アイドルでは定番の性を強調した水着やセクシーなサービスカットも「アイマスのファンはそれを求めていません」と、ファンの意見を取り入れた健全なゲーム制作を目指しているようでした。

しかし『アイドルマスター2』からDLC商法が加速。当初は1万円ほどの課金で全アイテムを入手できましたが、ソシャゲの『アイドルマスター シンデレラガールズ』(通称モバマス)からは他のソシャゲと同じく課金ゲーへ。

声優陣によるコンサートは2006年から定期的に開催され、2010年の時点でキャパ12000人の幕張メッセイベントホールを埋めるほどになっています。

 

ラブプラス旋風が吹き荒れた2010年のアイドル戦国時代にAKB48アイドルマスターが大きな成功を収める事が出来たのは、今振り返ってみると「AR・拡張現実」を制した者の勝利だったように思えます。

疑似恋愛ビジネスがゲームやテレビ番組の枠を飛び出して現実世界へ侵食してきたときに起こる「実際には付き合えない」という溝を埋めてくれるのがアイドル文化の持つ「応援」という行為。そこに「アイドルの成長」というドキュメンタリーを付け加えることによってバーチャルと現実の境界線は曖昧なものになっていきます。

AKB商法や行き過ぎたDLC販売も、「応援」によって得られるコミュニケーションの疑似体験に現実との接点を持たせるのに重要な要素でした。

そして両者とも「モーニング娘。」の持っていた「卒業システム」を排す事でファンの持つ幻想を長引かせることに成功しています。

AKB48は2009~2010年の選抜総選挙で上位7位、いわゆる「神セブン」と呼ばれていたメンバーを2017年まで残し(渡辺麻友)、アイマスにおいても「765プロオールスターズ」と呼ばれる初期メンバーを現在まで残しています。

こういったアイドルに対する応援の熱が高まった要因の一つとして、2011年の東日本大震災によって日本中に団結の意識が強くなったからだという指摘(※)もありますが、2014年頃には「BABYMETAL」や「でんぱ組.inc」のような、特定の音楽やサブカルチャーなどの1ジャンルに的を絞った、それまでのような疑似恋愛対象から外れたグループのグローバルな活動によってアイドルも多様性を獲得していきます。

 ※アイドルプロデューサー・もふくちゃん(福嶋麻衣子)、2018年吉田豪の猫舌SHOWROOM

 

4.レイプレイ事件

ラブプラス』が発売された2009年、エロゲ業界に激震が走ります。

それは「レイプレイ事件」と呼ばれるもので、国内向けの『レイプレイ』(2006年)というゲームがAmazonからイギリスへ流出。『レイプレイ』の持つ暴力性がイギリスだけでなくアメリカでも問題視され大論争へと発展。エロゲだけでなく『GTA』などゲーム全般の暴力表現問題まで蒸し返される事態に。

それまで国内でリアル寄りの3D美少女ゲームメーカーとしてブランドを築いてきた『レイプレイ』開発元のイリュージョンをはじめ、エロゲ業界全体が委縮したムードに包まれました。

イリュージョンは当時開発中だった『リアル彼女』(2010年)を最後に、リアル寄りのエロゲの開発をしばらくやめてしまいます。

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VRカノジョ』(C)イリュージョン アダルトゲーム ILLUSION All rights reserved.

その後イリュージョンは2017年に久々のリアル寄り3D美少女ゲームVRカノジョ』を配信することになるのですが、その内容は『サマーレッスン 宮本ひかり』を模倣したVR専用ゲームになっています。

 

ラブプラス以降、ラブプラスが切り開いた拡張現実による疑似恋愛を発展させたのが「アイドル」でした。

モーニング娘。の失速、『NEWラブプラス』(2011年)の失敗、リアル寄り3Dエロゲの空白期間においてAKB48アイマスの持つ双方向性は時代の追い風を受けて新しい疑似恋愛におけるコミュニケーションの形を定着させました。

 

宮本ひかりはアイドルである

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ゲームを始めるとまず、学校から帰ってきた彼女・宮本ひかりが自分の部屋のドアを開けて 、そこにいるプレイヤーの存在を不審がります。

その後で母からプレイヤーが家庭教師だと聞かされてこちらへと近寄ってくるのですが、その距離感は信じられないほど不自然に近いです。

このゲームの説明を簡単にすると、不自然で大げさな演出と、プレイヤーが家庭教師なのにもかかわらずたいしたことは教えられずほんの少し手助けする程度の薄いゲーム性、皆無といってよいキャラクターの掘り下げやストーリー性などが挙げられます。

こう書くと全然面白くなさそうに思えますが、これまで書いてきたギャルゲー~アイドルに至る疑似恋愛体験の変遷と、VRという特性を踏まえてみると評価は逆転します。

 

ラブプラス』のカノジョたちは、DSという箱に入れて持ち運ぶことは出来ましたが、決してその中からは出ることが出来ない存在。膨大なテキストやスクリーンパネルへのタッチ操作によって行われる「手をつなぐ」「キスをする」などの性的なコミュニケーションは、触れることの出来ない存在とプレイヤーとの溝をゲーム的なインタラクションによって補完するものでした。

そしてアイマスAKB48という存在は現実と虚構を行き来する実体を持った代わりに、アイドルを一人のプレイヤーに独占させるわけにはいかなくなり、距離感は『ラブプラス』よりも後退せざるを得なくなりましたが、アイドルの成長と、それをファンが応援するという形によって達成感の共有を疑似体験することが出来ます。

多くのファンのそれぞれ個々に対象とのドラマを描かせるため、込み入ったストーリーやキャラクター描写は排され、疑似恋愛の対象の多くは「応援したくなる・しやすい」タイプのキャラクターへと特化していきました。

 

宮本ひかりのキャラクターの設定や挙動は全てこういった疑似恋愛の変遷を踏まえたものになっています。

宮本ひかりの挙動は、アイドルのCMなどの短いドラマでよく使われる「画面の向こうの異性に対して話しかける」演出や、曲の振り付けで多く用いられるファンへのアピール的な仕草のみで構成されています。

 

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『Rev.from DVL「LOVE-arigatou-」橋本環奈×ガールフレンド(仮)ver』

Copyright © CyberAgent, Inc. All Rights Reserved.

わかりやすい例として、サイバーエージェントのソジャゲ『ガールフレンド(仮)』(2012年)の橋本環奈さんを使ったイメージ映像があります。

この映像では約4分間にわたって画面のこちら側にいる視聴者に橋本環奈さん扮する女子高生が見つめてきたり話しかけてくるというもの。

上の写真の場面では学校の水道水を飲んだ橋本環奈さんがこちらに向かって「おいしい!」と言ってくるのですが、こういう普通には絶対に起こらないような不自然なシチュエーションを成立させる為に求められるのが「アイドル性」の高さなのですが、この動画は映像・音楽・モデルのレベルが非常に高く、求められるアイドル性のハードルを易々と越えています。

 

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『アプガが僕に恋をした(仮)仙石みなみ アプガ制服青春コレクション

 ©YU-M Entertainment Co., Ltd. All Rights Reserved.

2016年7月30日に公開された『アプガが僕に恋をした(仮)』という動画はVR対応なのですが、映っているものの縮尺やカメラ位置が不安定で、モデルの日本人体形が悪い意味で際立ってしまい、余分なリアリティがはみ出してしまっています。

モデルの仙石みなみさんはアイドルとしては全然かわいい部類なのですが、VR映像だととても残念な事になってしまっていて、実写VR動画に求められるモデルの水準の高さを思い知らされます。

これらの動画ではゲームのようなインタラクションがないので、設定は「恋人同士」になっていますが、演出的には『サマーレッスン』と全く同じようなアイドル的演出のみで構成されています。

 

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アイドルの実写動画と比較すると、VRで見る宮本ひかりというモデルの完成度に驚かされます。プレイヤーの固定された位置から見た時の姿や、そこから繰り出されるアイドル的なポーズの自然さ、背景との融合が完璧です。

しかもVRでしか出来ないような不自然な、しかし紛うことなきアイドル演出を大胆に投入しています。

勉強中にプレイヤーの目の前で椅子に座っている宮本ひかりが鉛筆を落としてそれを素早く拾おうとするという演出があるのですが、1回では拾えず、3回目でやっと拾うことに成功します。まったくリアリティのない不自然な演出なのですが、アイドルに必要不可欠な「応援したくなる」要素と、1回目に拾う仕草をした時に彼女の頭が目線の下に来て、それを目で追うと戻ってくる彼女の頭とぶつかりそうになってとっさに避けてしまうというVR的なアクションが自然に融合するという、全く新しいアイドル演出を生み出しています。

随所にこうしたアイドルとVRを組み合わせた新しい試みに溢れていて、『サマーレッスン』の中の全てがアイドル的な空間として存在しています。

そこには動画と視聴者の間にあった垣根が消え、もはや「恋人同士」という設定すら不要になっています。

 

まとめ

ときめきメモリアル』では自分自身のスキルアップ・努力によって女の子と恋人同士になることがゴールだったのが、『ラブプラス』では恋人同士になった後のコミュニケーションが主軸になっていきました。

アイドルマスター』における声優のコンサートや、AKB48による拡張現実の生身化は恋愛要素を歌や振り付けなどの演出に特化させ、ファンによる「応援」とアイドルの「成長」ドキュメンタリーの共有によって新しいコミュニケーションのスタンダードを作りました。

そして『サマーレッスン』ではVRによって作り出される2人だけの空間が実現したことで、それまで現実と虚構の間にある溝を埋めていた余分な設定は消え去り、アイドルに認知してもらうための「応援」ももはや「見守る」程度にまで後退しました。

『サマーレッスン』におけるプレーヤーは一応家庭教師という設定ですが、存在としては守護霊に近い感じがします。成長を見守るだけの存在。

宮本ひかりという少女からは現実的な恋愛関係やセクシュアリティが排され、2人だけの空間とアイドル的な挙動のみによって、ただただ幸福な空間だけが存在しています。

これってもう「死んだおばあちゃんと霊が見える孫」とかでも良いと思うのですが、ここまでの空間を築き上げることが出来たのはやはり日本のギャルゲーやアイドルが長い年月をかけて育んできた疑似恋愛文化の賜物といえるでしょう。

『サマーレッスン』は疑似恋愛の歴史を総括し、ギャルゲーをVRによる新しいステージへ押し上げた作品だと思います。

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クソゲー」などのワードを叫びながらゲーム実況するキズナアイ

Perfume以降、恋愛とは無関係な歌詞によるアイドルソングが普通に受け入れられるようになり、『サマーレッスン』の発売と同じ2016年にバーチャルユーチューバーのキズナアイが誕生したりと、それまで当たり前だった性的なアピールや過剰なストーリーが排された現在の美少女文化は確実に時代と歩調を合わせた進化を遂げているのではないでしょうか。

 

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