ファークライ ニュードーン
2019年2月15日
「あれ、これってメタルじゃね?」
…20年以上活動しているパンクバンドの新曲を聴いて一瞬混乱することがある。
初期衝動で世に出たバンドがその長い活動の過程で歌や演奏が洗練されて、音楽への造詣も深めてルーツ的なモノを取り入れたりすることによって「ただのありふれた巧いバンド」になってしまうことはよくある。
別にいいけど、でも、やっぱり何かしっくりこない。
そこで自分が音楽に何を求めていたのかを再考せざるを得なくなる…。
『ファークライニュードーン』を2時間ほど遊んでみて私の頭をよぎったもの…
あれ、これって…?
ゲームの中で車を走らせながら考える。時には敵に見つからないよう森の木陰に車を停めて考える。
私は一体何をやっているのだろうか…と。
今作は前作『ファークライ5』の続編。前作で核爆弾が落ちてから17年後のホープカウンティはカラフルな植物と廃墟で構成された美しいポストアポカリスの世界。
この世界観が今作のストーリーにそれほど生かされていないことはすぐにわかった。
いや、生かされてないというよりはこれまでのファークライのストーリーテリングをそのまま今作の世界観に当てはめても何の違和感もないので新鮮味に欠けると言った方がいいかも。
前作から大分丸くなった印象のあるファークライだが、カルトを扱った世界観は尖っていたしボスキャラのファーザーもクセの強い奴だった。
今作の世界ではバイカー集団が幅を利かしていて、そいつらを束ねる姉妹は魅力的だがそれほど強そうには見えない。
よく見るとマップも狭くなっている…。
もう一度…車を停めて考える。
これは私がやりたかったファークライではないのではないか?
窓の外へ目をやると現実と見紛うような美しい景色が広がっている。
まるでラッセンの絵画のようだ。
それがますます私の中の「これってメタルじゃね?」という不安を掻き立てる。
そんなことを考えながらいつものように敵の拠点を攻めていく。
今作では一度クリアした拠点を「攻め直す」ことが出来るようになった。
クリアするたびに拠点のレベルが上がり(上限レベル3)、敵の種類や警報器の数が増えたりする。
レベル2の拠点の敵はヘルメットを被っていてヘッドショットを決めてもヘルメットが吹っ飛ぶだけで、素早くもう一度狙わなければ拠点全体の警戒を高めてしまう。
レベル3になると処刑人という特殊な敵が配置されて肉眼でしか姿を捕らえられなくなる。
今作では前作に引き続きRPG的な成長要素も強化されていて、地道にスキルを解放していくことでゲーム中のあらゆる攻略をヌルゲーに出来る。
私はファークライではいつもステルス行動に徹していて、拠点の外からスナイパーライフルで制圧するのが好きだ。
そんな私のようなタイプには、あえて強化はしないで高レベルのミッションに挑むことでスリルと歯ごたえのある戦闘を楽しむことが出来る。
ヘルメットの敵も首部分の装甲の隙間を突けば一撃で倒すことも出来る。
お…おもしろい!!!
RPG要素と書いたが、自分の拠点も様々な方法で収集したアイテムを消費することによって強化することが出来て、それによって様々な装備・乗り物・ミッションが追加される。
中でも特筆すべきなのが「探検」というミッションだ。
今作ではマップが狭くなったと書いたが、マップ上には素材集めや宝探しのような探索・発見に特化したミッションだけが散りばめられていて、本格的なミッションはメニュー画面から「探検」を選べば、いつでも気軽に遊ぶことが出来る。
しかも新マップが7つも!
廃墟と化した遊園地から原発までバラエティに富んでいて廃墟好きにはたまらない。
前作の有料追加DLCでは制作会社の違いからかグラフィックも劣化していてがっかりしたのだけどこの「探検」には大満足。
使いまわしマップは適度に飽きない程度に縮小し、しっかりと新しい遊び場を追加する今作のゲームデザインは『5』の続編としては100点に近いかもしれない。
この時点で序盤に感じた「あれ…これってメタルじゃね?」という違和感はほとんど消えていた。
私がファークライに求めていたヒリついた空気やプレイヤーへの問題提起を促すような「問題作」としてのファークライはここにはない。
だが、あくまでもゲームの遊びとしての進化を地道に、誠実に成し遂げようとしている姿勢はシリーズとしての信用を上げている。
ストーリーにしてもそう。
今作のストーリーは時間にしたら短いしスケールも小さい。
でもそれは決して悪い意味ではなくて。
今作のストーリーのテーマは「家族」だった。
展開されるいくつかの小さな家族の物語の中には前作で知り合った人たちも含まれる。
前作は核爆発というプレイヤーにとって理不尽な結末だったが、今作のエンディングでプレイヤーは祝福される。
それは小さな家族の、ビールひと口分の小さな祝福かもしれないが、プレイヤーが自らの手で勝ち取ったものだ。
ゲームに何を求めるかによってファークライの評価は変わる。
今作で初めてシリーズに触れる人にとっては冒頭での私のように「綺麗で、巧いだけ」のヘヴィメタルやラッセンの絵画のような退屈なアートに感じるかもしれないし、逆にそういうものが好きな人にとっては普通に面白いゲームかもしれない。
本作は『5』をプレイ済みのファンへ配慮しながらFPSとしての精度を上げた「価値のある続編」にはなっているが、おそらく多くのゲーマーからの高評価は得られないだろう。
個人的には大好きだけど、今作もやはりまた「ファークライっぽい」としか形容のできない異色作になっている。