Life is Strange
DONTNOD
2016年3月3日(日本語版)
PlayStation 4、 Android、 Xbox One、 PlayStation 3、 Xbox 360、 iOS、 Microsoft Windows、 Mac OS、 Linux
ゲーム『Life is Strange』の感想です。
ネタバレはなるべく無いようにストーリーの詳細(特に後半)には触れていません。
日常系アドベンチャーゲームの傑作
『Life is Strange』を開発したのはフランスのDONTNODというところですが、フランスのアドベンチャーゲームといえば『ヘビーレイン』を思い浮かべる方も多いかと思います。
実際DONTNODの開発陣は『ヘビーレイン』の開発にも携わっているので似たような印象を持つのは当然ですね。
2作を比べると操作性やカメラ視点など、だいぶ違うゲーム性で『Life is Strange』の方が昔ながらのアドベンチャーに近く『ヘビーレイン』で採用された細かい段階的な操作やQTEも省かれています。
『Life is Strange』には「SFアドベンチャー」という肩書が使われていますが、その理由としては主人公のマックスの時間を巻き戻す能力によって過去を改変出来るということがあります。
こう書くと『シュタインズゲート』のような種類の面白さを期待されてしまうかもしれませんが、SF要素は大まかなストーリーの主軸としてはあるのですが、むしろその周りを囲む高校生たちの日常こそが本作の醍醐味と言えるでしょう。
このゲームでは序盤にマックスが見た巨大な竜巻や学校に貼られている失踪者の捜索届など、SF・ミステリ要素でストーリーが展開していくのですが、そういった事件に立ち向かいながら成長する18歳のマックスの心の揺れがとてもよく描かれていたのが10代の若者の支持を多く得ることができたのだと思います。
誰でも入りやすい
伊集院光さんの「昔のアドベンチャーゲームの4択を時間を巻き戻すという能力にしただけ」という指摘は正しい。
あとPS4版では時間を巻き戻すボタンがL2ボタンなんですが、これはプレイステーションでDVD・Blu-rayや動画配信の動画を巻き戻すときと同じボタンなんですよ。
これら昔からのゲームプレイヤー(PSユーザー)に馴染みのあるインターフェイスをSFのストーリーに上手くはめ込んでいるので多くのプレイヤーは自然にゲームの世界に入れるんですよね。
『魔法少女まどか☆マギカ』との類似
2011年放映のテレビアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』(以下まど☆マギ)と似ていると言われることがありますが、確かに設定はかなり似ています。
『まど☆マギ』の世界は数日後に「ワルプルギスの夜」という最強の魔女によって街が襲われることが確定している世界で、それによって失われる主人公である鹿目まどかの命を救うためにまどかの友達である暁美ほむらが時間を何度も巻き戻してまどか救出に奔走するというお話。
しかもこの「ワルプルギスの夜」は普通の人には自然災害にしか見えないというのがマックスの見た巨大な竜巻と一緒ですね。
ここまで似ていると『Life is Strange』は『まど☆マギ』の魔法バトルの要素を抜いてアメリカ・オレゴン州の高校生達の日常に置き換えた作品と言ってよいかと思います。
18歳の心の機微
主人公のマックスはアート系の学校に通うために5年ぶりに故郷に帰ってきます。そしてゲームはそれから約1か月後の授業中の風景から始まります。
マックスは非常に内気な性格なのですが新しい学校で自分を変えようとしていたり、全然連絡を取らなかった親友に引け目を感じていたりと、同じ経験がなくてもつい共感してしまうような細かい心の機微が表現されています。
大人になると気にならなくなるような小さなことでも気にしたり強がったり、人を傷つけるようなジョークでしか気持ちを表現できなかったりだとか、マックスと親友のクロエのやり取りを見ていると痛々しくも懐かしい気持ちになります。
個人的にはイギリスのロックバンド『The Smiths』を連想してしまいました。
「はにかみ屋っていうのはいいことさ だけどこれからの人生何か言いたいことがある時 はにかんでると言えない時があるんだ だから何かやってみたいことがあったら もし何か挑戦してみたいことがあったら 僕に聞いてごらん 絶対に「ノー」とは言わないから 駄目だなんて決して言わないから」「だってこれが愛じゃないとしたら これは爆弾だから 僕たちを結び付けてくれる爆弾だから」(The Smiths-Ask)。
『Life is Strange』のことを思うとマックスとクロエにThe Smithsのモリッシーとジョニーマーを勝手に重ねて泣いてしまいそうになります。
マックスが通う学校の掲示板にあるバンド募集の貼り紙の中にThe SmithsやNIRVANAの名前があるので、そのせいです。
少し音楽の話で脱線しますが『Life is Strange』のサントラ(日本未発売)にはMOGWAIやPJハーヴェイなども参加していてとても豪華。
ゲームの最初でマックスが教室を出るときに聴いているアシッドフォーク調の曲(syd matters-To All of You)から心を持っていかれます。
音楽が本当に素晴らしいです。
ディテールが紡ぐリアリティ
まさかゲームの中でThe Smithsの名前を見つけるのも私にとって驚きでしたが、このゲームは冒頭からダイアンアーバスなどの実在の写真家の名前がたくさん出てきたり、マックスのロッカーの中にアンディウォーホルの写真が飾ってあったりと、アート・サブカル方面の情報が詰め込まれています。
開発者のインタビューを読むと医療器具などの細かいセットなどにも細心の注意が払われているようで、それらが一体となってこのゲームのリアリティを形成しているのだとわかります。
前日譚の日本版発売も決定しているこの『Life is Strange』の1作目は本当に傑作で、沢山の人にプレイしてほしいです。